聖霊に関する資料を求めて
文字数 1,715文字
「歩くの、はええよ」
ザウバーとは対照的に、ベネットの呼吸は全く乱れていなかった。その上、彼女は余裕の表情まで浮かべている。
「そういった話は後だ。図書館が開放される時間は、限られているからな」
それだけ言うと、ベネットは振り返る事無く歩き続ける。すると、ザウバーも時間に余裕が無い事は判っていた為か、何も言わずにベネットを追いかけていった。
二人が入った図書館には、沢山の本が集められていた。殆どの本は、きちんと本棚に収められ、その分野毎に細かく分類されていた。中には乱雑に積まれた本も有るが、それらの本は司書によって次々に在るべき場所へ戻されている。
また、館内には数十人以上の利用者が居り、学生や講師では無い人物が数人混じっていても、目立ちはしない様だった。
「手分けして資料を捜そう。そして、それらしき資料が見つかったら、司書の目に付きにくい席で閉館まで粘るとしようか」
小声でザウバーに伝えると、ベネットは意とする席を指し示した。彼女が指さす先には、閑散としたスペースが在る。
その一帯に置かれた椅子は他の場所のものと比べて古く、机に至っては所々に穴が開いている程だった。
「分かった。二手に別れた方が、効率も良いだろうしな」
ベネットの提案を聞いたザウバーは、真剣な表情で言葉を返した。
「では、捜すとするか」
そう言い残すと、ベネットは静かに本棚へ向かっていった。そして、聖霊に関する資料を見つけたベネットは、その内容をダームとザウバーへ伝る為に読み込み始める。
――
創始者と呼ばれる存在が生じた時、世界が生まれた。
創始者は世界を創造する為、聖霊と呼ばれる存在を創りあげ、その聖霊を統べる事により、その世界をも統べんとした。
始めに創始者は、世界を照らさんと光の聖霊を創りあげる。光の聖霊たるリヒトは、創始者によって与えられた神殿に住まい、その力を創始者へ捧げる事を誓った。
次いで、創始者の意思では無かったが、光と対をなす存在である闇の聖霊スクルトが生じた。
闇聖霊たるスクルトの力は、光聖霊リヒトの力と拮抗し、どちらかの力が強まれば一方は衰える関係にある。
次に創始者は、生きとし生ける者を住まわす場所を創る為、地の聖霊アードを創りあげた。大地を司る地の聖霊アードは、地下城を与えられ創始者に忠誠を誓った。
次に創始者は、地の聖霊アードと対をなす存在である風の聖霊マイトを創りあげた。風聖霊たるマイトは、地聖霊アードが力強く大地を支えている存在であるのに対し、気の向くまま自由に空を舞う。
風聖霊マイトは、創始者に天空城を与えられ創始者に忠誠を誓った。
地聖霊アードと風聖霊マイトは、一見して接点無き聖霊であるが、地聖霊アードは生命を育み、風聖霊マイトは新たに紡がれんとする生命を運ぶ。即ち、地聖霊アードと風聖霊マイトは、共に生まれ出ずる生命を永久に紡がんとする聖霊である。
次に創始者は、大地を暖め、更には生じた穢れを焼き払わせる為、火の聖霊フランメを創りあげた。
火聖霊フランメは、時に優しく他の者を暖める。しかし、その一方で猛る力を放出し、周りの全てを昇華させる。
火聖霊フランメは、創始者に赤き宮殿を与えられ創始者に忠誠を誓った。
次いで創始者は、大地を潤し、更には生じた穢れを浄化させる為、水の聖霊ワダーを創りあげた。
水聖霊ワダーは、その力によって優しく他の者を潤す。しかし、時にその大いなる力により全てを飲み込まんとす。
水聖霊ワダーは、創始者に蒼き宮殿を与えられ創始者に忠誠を誓った。
――
「まもなく閉館の時間です。本を借りたい方は……」
本を読み続けていたベネットは、閉館を知らせる声に気付くなり本を閉じて立ち上がる。彼女は、先程まで読んでいた本を本棚へ戻すと、疲れた様子で首を回した。
べネットは、ザウバーが何処に居るかを確かめる為、ゆっくり館内を見回した。しかし、近くに彼の姿は見当たらなかった。この為、ベネットは諦めた様子で溜め息を吐き、図書館の外へ向って歩き始める。