叫ぶ二人を放置しつつ行くよ
文字数 1,268文字
「そろそろ出発するか」
「だな。西の森に行って、リューンとかいう奴を締め上げねえと」
そう返すと、ザウバーは気怠そうに大きく伸びをする。深夜に起きた出来事のせいか、彼の表情にはそこはかとなく疲れが浮かんでいた。
「え? リューンとか、西の森って何? 僕達、これからフォッジに向かうんじゃ無いの?」
しかし、昨夜に起きた出来事を知らないダームは、困惑した様子でザウバーを見上げる。
「ダームは寝たままだったから、奴らの事を知らねえか」
そう言うと、ザウバーはベネットと顔を見合わせる。
「そうだな。一度あの者達の所に行って、昨夜の出来事を説明するとしよう」
そこまで話したところで、ベネットは牙で出来た檻の方へ歩き始めた。
程無くして檻の前に着いたベネットは、ダームの顔を無言で見た。
「ダーム。一応聞いておくが、この者達と面識はあるか?」
この為、質問を受けたダームは、恐る恐る檻の中を覗き込む。
「ううん。僕は、この辺りに来るのだって初めてだし、知らないよ」
ダームはベネットの方へ向き直ると、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「知り合いだったら、どうするつもりだ!」
すると、二人の話を聞いたリンが、狂った様に叫び声をあげた。
「知り合いであれば、穏便に話を進められるかも知れないと思ったまでだ」
そう言うと、ベネットはリンを鋭く睨み付ける。
「残念だったな。それに、仮に知り合いだろうと、話し合う気は毛頭無い!」
「昨夜の事を知らねえダームの為にここまで来たんだろ? とっとと説明して、西の森に向かおうぜ」
ザウバーは、話に収拾を付けさせるべく口を開いた。
「そうだな。モーリーという女性の安否も気になる。ダームへの説明は、森へ向かいながらするとしよう」
「それは良いけどよ。そもそも、西の森ってどこに在るんだ?」
「土地勘も無い貴様等など、辿り着く事すら出来ない!」
リンは、三人を見下すかの様に笑い声をあげた。
「それについては問題無い。獣聖霊の力を持つ私には、相手の心を読み取る力が有る」
リンの言葉が聞こえなかったかの様に、べネットは淡々とザウバーの質問に答えていく。
「無論、誰彼構わず読み取る訳では無い。だが、この者達の様に激昂しやすい性格の場合、読み取ろうとしなくとも考えが流れ込んで来る」
彼女はリンの顔を見、呆れた表情を浮かべて息を吐く。
「で、肝心の森は、ここから近いのか?」
「ああ。一時間程度歩けば、森に着くだろう」
「森に着いたとしても、リューン様は見付けられない!」
「物事をやり終える迄は、誰しもその可否を判定する事は出来ぬという事を覚えておくが良い」
ベネットに動じる様子は無く、今まで威勢の良かった二人は急に大人しくなった。
「何時までも此処にいたら、時間の無駄だ。いい加減に出発するぞ」
そう言うと、ザウバーは直ぐにでも森へ向かいたいと言わんばかりに足を鳴らす。
「そうだな。森に行き、リューンを捜し出そう」
ベネットはザウバーの前に立つと、仲間を先導する様に歩き始めた。