小説の種類によっては破滅する系令嬢
文字数 1,741文字
「長居すれば店側の迷惑になる。そろそろ出発しようと思うが、構わないか?」
「うん。お腹も一杯になったし、大丈夫だよ」
問い掛けられたダームは、ベネットの方を向いて元気良く返事をした。少年の唇に食べ物の残骸が残っているが、彼が気にする様子はない。
「だな。まだ見てねえ場所も沢山ある事だし、店を出るとするか」
そう言うと、ザウバーは椅子から勢い良く立ち上がった。そして、それを合図とする様に、三人は店の外へ出る。
その後、店を出た三人は、街をくまなく捜索していった。時が過ぎ、空が紅色に変わり始めた頃、ザウバーは疲れた様子で溜め息を吐く。
「街の中を色々と探してみたが、聖霊の居場所を示す詩は見つからねえな」
そんな彼の表情からは、街に到着した際の力強さは感じられない。そして、ベネットがザウバーの言葉に応えようと口を開いた時、低い鐘の音が街の中に響き渡る。
「あ、また鐘の音がする。しかも、結構近い」
鐘の音が再び響き始めた時、ダームは興奮した様子で言葉を発した。
「あれは終業の鐘だ。どうやら、詩を捜すうちに自然と教会学園へ近付いていた様だな」
ベネットはダームへ簡単に説明をすると、軽く目を瞑る。
「じゃあ、折角だから、ベネットさんが通っていた学校を見に行ってみようよ」
そう言うと、ダームはベネットの顔を楽しそうに見つめた。その際、ベネットは一度不安そうな表情を浮かべた。
「見に行くのは構わないが、校内の案内は出来ない。それでも良いか?」
「良いよ。ベネットさんが通っていた学校を見たいだけだし」
ダームは、そう言うとベネットの腕を軽く掴み、にっこりと微笑んだ。対するベネットは細く息を吐き、ダームとザウバーの顔を見て口を開く。
「では、日も暮れかけていることだし、今日は学園を見たら宿を探して休むとしよう」
ベネットの提案を聞いた二人は頷き、三人は学園へ向かって歩き始めた。
暫く歩いた後、ベネットは大きな建物の前で立ち止まる。
「ここが教会学園だ。と言ったところで、この様な高い塀に囲まれていては、中の事は何も分からないが」
そこまで話すと、彼女は気怠そうに細く長い息を吐く。その時、三人の目の前には、煉瓦で造られた高い塀が広がっていた。
その塀は、まるで外部の人間を拒絶するかの様に造られており、容易に敷地の中を窺い知ることは出来ない。
「つまり、一般の者は入る事すら許されぬ閉鎖空間。それが」
「あら、いやねえ。誇り高き学園の前に、薄汚い人間が三人も居るなんて。一体、警備員はどうしたのかしら」
突然、制服を身に付けた人物が、ベネットに勢い良くぶつかり、悪びれた風もなく言い放った。
「てめえ……自分でぶつかっておいて何だ、その態度は!」
その光景を見たザウバーは、女性の言葉と態度が気に触ったのか、思わず声を荒げた。
「あら、見た目通りの野蛮人ね」
そう言い残すと、その女性はザウバーと目を合わせることなく去っていく。
態度の悪さに立腹したのか、ザウバーは感情に任せて女性へ歩み寄ろうとする。しかし、ザウバーが動き出すよりも前に、ベネットが彼の肩を掴んで抑止した。
「奴等に何を言っても無駄だ。それに、明日になれば一日だけだが学園は一般公開される。ひとまず、今日はここから去ろう」
そう言うと、ベネットはザウバーの目を真っ直ぐに見つめる。
「だけどよ」
「学園の事は、宿を見つけてから詳しく話す。ここで騒ぎを起こせば、分が悪いのは余所者の私達だ。気持ちは分かるが、ここは堪えてくれ」
それだけ伝えると、ベネットは悔しそうに唇を噛み締めた。
「分かったよ」
ベネットの願いを聞いたザウバーは、そう言うと何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「それに、何時までも此処に居たら、先程の様なトラブルが起きかねない。宿を見付けて、今日はもう休むとしよう」
ベネットは、ダームとザウバーの意見を窺う様に二人の顔を見た。
「そうだな。途中、無駄な力を使う羽目になっちまったし。とっとと宿を見つけて休もうぜ」
そう返すと、ザウバーはベネットの顔を見つめて微笑んだ。それを見たダームは大きく頷き、三人は宿泊先を探して歩き始める。