生み出されし者
文字数 1,514文字
「暗くなってきたな」
「そうだね。お腹も空いたし、今日はもう休みたいな」
ダームは、疲れた様子で言葉を発した。ベネットは周囲を見回し、その状況を確認する。
「だが、近くに横になれそうな場所が見あたらない。見つかるか分からないが、休めそうな場所を探してみないか?」
ベネットは一つの提案を述べ、ザウバーは周辺を見回す。
「確かに、こんなに細くて急な山道じゃあ、おちおち寝てらんねえな」
「そうだね。この道は大きな石が幾つも有るし、道を外れたら戻って来られない位に木や草が生い茂ってるし」
そう言うと、ダームは心配そうに空を見上げた。
「それでは、暗くなってきて不安も有るが、もう少し進むとしよう」
ベネットの言葉を合図とする様に、三人は休める場所を目指して歩き始めた。
休めそうな場所を探し始めてから暫くして、ベネットは暗くなっていく空を見上げながら不安そうな表情を浮かべた。
「ああは言ったものの、休めそうな場所が見つからない」
ベネットの呟きを聞いたダームは、顔を上げザウバーの上着の裾をそっと引く。
「ザウバーは、辺りを照らす魔法は使えないの?」
少年は目を潤ませ、ザウバーへ期待の眼差しを向けた。ところが、ザウバーが口を開いた刹那、謎の影が彼らの前に現れる。
その影は、ザウバーに向かって鋭い爪を勢い良く振り下ろした。
「シュッツェ!」
しかし、ザウバーが咄嗟に防御呪文を唱えた為、その影は後方へと弾き飛ばされてしまう。その影は、激しく咳き込むと、倒れ込んだままの姿勢で青年を睨み付けた。
「シェルファング!」
その影が青年へ気を取られている内に、べネットは牙の檻を生じさせる呪文を唱えた。この為、襲撃者は牙で出来た檻へ閉じ込められた。それを見たザウバーは安堵の表情を浮かべる。
そんな中、ダームは大きく息を吸い込み、恐る恐る檻の中を見た。すると、そこには鋭い目線を他者へ向け、上方へ向けて尖る耳を持つ者の姿が在った。
彼の腰には、まるで犬の様な尾が付いており、興奮の為かその体毛は大きく逆立っている。しかし、その体の殆どは、三人と大きな差異は無かった。
「あれ? この人って」
ダームは、檻の中を見つめたまま、不思議そうに声を漏らした。
「獣人。力を得ようとした人間によって生み出された、狭間の者。人間が行った狂気の実験における被害者だ」
ベネットは目を細め辛そうな表情を浮かべた。ベネットの説明を聞いたザウバーは、訝し気な表情を浮かべて彼女の顔を見つめる。
青年の表情に気付いたベネットは檻の中を一瞥し、それからザウバーの顔を見つめ返した。
「その昔、人間の知能と獣の能力を併せ持った生物を作成する為、様々な実験が行われたらしい」
そこまで話すと、ベネットは気持ちを落ち着ける為、何度か深呼吸を行った。
「その実験で生み出された者達は、人と獣のどちらの種族にも疎まれ、この様な山中で暮らす事を余儀無くされていると聞く」
一通りの説明を終えると、べネットは目を瞑って深い溜め息を吐いた。
「そんなの酷すぎる!」
ベネットの説明を聞いたダームは、苦しそうな表情を浮かべて俯いた。ベネットは、心配そうに少年を見つめ、優しく彼の頭を撫でた。
「だから、この者が襲ってきたことを、どうか責めないで欲しい」
「構わねえよ。誰かが怪我した訳じゃなし。それに、そんな話を聞いちまったら、人間に恨みを持つのも分からなくもねえからな」
ザウバーは、そう返すとベネットの目を見つめて微笑んだ。