お腹が空いたら力も出ない

「おなか減ったなあ」
　気の抜ける様な音と共に、ダームは言葉を発した。彼の声に覇気は無く、声を出すことでさえ消耗している様だった。

「無理も無い。朝に軽く食べてからというもの、何も口に入れていないからな」
　そう言うと、ベネットは食料が入った荷物袋の留め金を外した。すると、その開け口から、パンの甘い香りが小屋の中へ広がっていく。
　
「モーリーが目を覚まさなきゃ何もできねえし、ここらで軽く食事といくか」
　二人の様子を見ていたザウバーはゆっくり立ち上がり、そのまま大きく伸びをする。その瞬間、急に周りが騒がしくなった為か、モーリーは頭を痛そうに押さえながらも、自力で上体を起こした。
　彼女の動きに気付いたベネットは、荷物をそのままにしてモーリーの側へ向かう。
　
「大丈夫か？」
　そう問い掛けると、ベネットは膝をついてモーリーの顔を覗き込んだ。

「まだ、頭がぼーっとしてはいます。ですが、それ以外の不調はありません」
「そうか、それならば安心だ」
　モーリーの声がしっかりしてきた為か、ベネットは安心した様子で胸を撫で下ろす。

「私達は、これから食事をしようと思っている。良かったら、一緒に食べないか？」
　ベネットは、食物が入った袋を指差す。しかし、彼女の提案が突拍子の無いものだった為か、モーリーは驚いた様子で言葉を詰まらせてしまった。
　
「貴女の顔色は、良いとは言い難い。だから、食事で栄養を摂ったらどうかと考えたのだが」
　モーリーの表情を見たベネットは、たどたどしい説明を加えていった。

「それに、用意した食料は沢山有るんだ。体力的に弱っている奴にやらないで、誰にやれって言うんだよ？」
　やりとりを聞いていたザウバーは、ベネットを手助けするかの様に、二人の会話へ割って入った。そして、その言葉を裏付けるかの様に、彼の手には先ほど開封されたばかりの袋がしっかりと握られている。
　
「そうそう。それに、人数の多い方が楽しいしね」
「お気遣い、ありがとうございます。ですが、見ず知らずの私に、何故そこまでしてくれるのでしょう？」
　三人から次々に話しかけられたモーリーは、そこまで話すと俯き、言葉を詰まらせた。
　
「その経緯は、食べながら話そう」
「そうそう。腹が減ってる状態じゃ、頭も働かねえだろ」
　それだけ言うと、ザウバーは食料の入った袋をモーリーに手渡した。モーリーは手渡された袋をしっかり持つと、小さな声で礼を述べる。

「さて、私達も食事をしながら体を休めるとしよう」
　ベネットは床に腰を下ろし、安心した様子で細く息を吐き出した。
　
　その後、彼らは食事をしながら話を続けた。そして、会話の中で三人がここへ至るまでの経緯を説明した時、モーリーは申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「そうですか……リンとキーが、その様な事を」
「貴女が気に病む事では無い。悪いのは、二人を騙していたリューンだ」
　しかし、ベネットの気持ちも虚しく、モーリーの顔色は急に青ざめてしまう。
　
「大丈夫か？　体調が良くないんなら、無理せず休め」
　モーリーの顔色に気付いたザウバーは、心配そうな声で問い掛けた。

「いえ、大丈夫です。それに、助けて下さったのがあなた達である以上、その事についてお話しなければなりませんから」
　そう言うと、モーリーはぎこちないながらも微笑んだ。
　
「でも、モーリーさん辛そうだよ？」
　そう問い掛けると、ダームは心配そうにモーリーの顔を覗き込む。

「いえ、話さないままでいる方が辛いと思うので」
　ダームの心配を打ち消す様に、モーリーは明るい声で言葉を発した。