探していた女性
文字数 1,568文字
ベネットは、壁に叩き付けられた少年を心配して声を掛け、彼の元へ駆け寄りたそうに上半身を動かす。しかし、ベネットは気を失っている女性を抱えているため、大きく動くことは叶わなかった。
一方、ダームは首を振り、直ぐに彼女の方へ向き直る。
「何とか」
少年は、壁に打ち付けた部位をさすりながら返答した。ダームの声は擦れており、少なからず体に打撃を受けていることが窺える。
「すまねえ。力の加減を間違えちまった」
床下から這い上がってきたザウバーは、ダームの方に近付くと申し訳なさそうに謝罪した。
「次にやったら、許さないから」
そう言うと、ダームはザウバーの目をきつく睨み付ける。
「でも、今はこの人を助けるのが先だから、特別に許してあげる」
「そうだな。ザウバーの突拍子もない行動にいちいち付き合っていたら、時間を無駄にしてしまう」
二人の会話を聞いていたベネットは、半ば呆れた様子で声を発した。
「本題に入るとしよう。この女性、一応生きてはいる。だが、何らかの術により、魔力を奪われ続けていた。そして、魔力が殆ど無くなった為に、体力の回復もままならなかった様だ」
女性の顔色は青白く、微かに動く胸から辛うじて生きている事が確認出来た。
「それで、そいつは治せるのか?」
「大丈夫だ。ただ、この状態から回復させるには、ザウバーに協力して貰う形になる」
ベネットは、そう言うとザウバーの目を見つめた。
「俺にか? 言っておくが、俺は回復魔法を使えないぜ?」
ザウバーはベネットの方に歩み寄り、彼女の近くでしゃがみ込む。
「先程説明した通り、この女性には魔力が残されていない」
ベネットはそこまで話すと、女性の髪を優しく撫でた。
「私がこの者の体力を回復させる事は容易だ。しかし、今回の場合は、魔力も同時に回復しなければ、焼け石に水でしかない」
そう説明を加えると、ベネットはザウバーの目を見て微笑んだ。
「つまり、俺は魔力を注いでやればいいのか?」
「そういう事だ。私には、体力と魔力を共に回復させる力は無い」
「そうと決まれば、とっととやっちまおうぜ!」
ザウバーは、そう言うや否や自らの両手を女性へ翳した。この為、ザウバーのやる気に満ちた台詞を聞いたベネットは、目を瞑って呪文を唱え始める。
すると、小屋は七色の光に満たされ、力無く横たわっていた女性はうっすらと目を開く。目を開いた女性は静かに息を吐き出すと、ゆっくり周囲を見回した。
「お、気が付いたか」
それにいち早く気付いたザウバーは、優しく女性へ話し掛けた。
「あなた……は?」
目覚めたばかりの女性は小さく顔を動かし、たどたどしい口調でザウバーの名前を尋ねた。彼女の声は非常に小さく、今にも消え入りそうである。
この為、女性の声を聞き取ろうと、ザウバー達は彼女の口元に耳を近付ける。
「俺か? 俺の名前はザウバーだ」
その後、ザウバーは女性を不安にさせないよう、落ち着いた声で彼女の質問に答えていった。
「ザウバーさん……ですか。私は……モーリーと、言い……ます」
途切れ途切れに名乗った女性は、ザウバーの顔をぼんやりと眺めた。しかし、モーリーは細く息を吐き出すと、再び目を閉じてしまう。
「ようやく、目指していた奴が見つかったってことか」
ザウバーはベネットの顔を見やり、安心した様子で息を吐く。ザウバーの言葉を聞いたベネットと言えば、横たわっているモーリーの顔を見下ろした。
「そうだな。今は安静にさせ、後で詳しく話を聞こう」
彼女はザウバーの目を見ると、微笑みながら一つの提案をした。そして、体勢を立て直すと、静かにモーリーを床へ寝かせる。
「だな。モーリーが回復するまで、俺達も一息つこう」
それだけ言うと、ザウバーは小屋の壁へ体を寄りかからせながら腰を下ろした。