装備の準備は旅支度の基本
文字数 1,512文字
アークは、二人に自分の後に付いて来るよう目配せをした。この為、ダームとザウバーは大きく頷き、彼らは武具店へ向かって歩き始める。
三人はアークを先頭に、街の中を進んでいった。そして、金属製の大きな看板が掛けられた武具店の前まで来た時、アークは立ち止まる。彼は、後方を振り返って微笑むと、武具店のドアを開けてダームとザウバーに店へ入るよう促した。
アークに促されるまま二人が武具店に入ると、そこには様々な武器や防具が取り揃えられていた。壁に掛けられた剣の刀身は輝き、魔術に使用される杖には様々な色を放つ宝玉があしらわれている。また、鎧や盾などの防具も、革製のものや金属製のもの、一部を覆うものや全身を覆うものなど様々なものが揃えられていた。その為か、煌びやかな光景を見たダームは、武具店に入るなり目を輝かせ嘆声を漏らした。そして、少年は数歩進むと、興奮した様子で青く色付けられた手甲を手に取る。
「この店は、ヘイデルの中でも品質、品数共に一番の武具店で、私達警備兵も利用しております」
「でも、沢山あると迷うなぁ」
アークの説明を聞いたダームは、持っていた手甲を元の場所へ戻し、再度店の中を見渡した。
「ゆっくり選んで下さって構いませんよ。私は警備兵本部に戻り、暫く不在になる旨を伝えてまいりますので」
微笑み、アークはザウバーに目線を送る。その視線に気付いたザウバーは、無言で小さく頷いた。アークは礼を言い軽く一礼すると、静かに武具店から立ち去った。
武具店に到着してから数十分後、アークは大きな荷物を背負って店へ戻る。彼は、気持ちを落ち着ける様に大きく息を吸い込むと、目的とする人物を捜す為、何度か店内を見回した。
すると、入口から少し離れた場所には、気怠るそうに佇むザウバーの姿があった。彼は、待つ事に飽きてしまったのか、虚空を見つめながら大きな欠伸を繰り返していた。
ザウバーの姿を確認したアークは、ゆっくり彼の方へ向かっていく。
「お待たせ致しました。気に入った武器や防具は見つかりましたか?」
「ああ、俺は……な」
彼は、アークの問い掛けにゆっくりと答えを返し、苦笑する。ザウバーの声は擦れ、その表情はどことなく疲れている様でもあった。
「それは良かったです。ところで、ダームの姿が見あたりませんが御存知ありませんか?」
そう伝えると、アークは再度店内を見回し、不安そうな表情を浮かべる。
「あいつは、さっきから鏡の前であれこれ試着してやがるよ」
言いながら、ザウバーはダームが居る場所へ目線を送り、疲れた様子で溜め息を吐いた。
「僕、これがいい!」
ダームには彼らの会話が聞こえていたのか否か、二人の元へ駆け寄ると、嬉しそうな笑顔を浮かべた。
この時、ダームは金属製の胸当てを抱えており、彼の蒼い瞳はきらきらと輝いていた。
「かしこまりました。それでは、会計に向かいましょう」
そう言うと、アークはダームが抱えていた胸当てを受取り、少年の瞳を見つめて微笑んだ。
支払いを済ませた後、彼らはそれぞれに購入した商品を手にして武具店を後にした。
アークは度々後方を振り返りながら武具店から離れ、人通りの少ない小道で立ち止まる。
「装備も揃えた事ですし、クルークの洞窟に発とうと思います。二人とも、心の準備は宜しいですか?」
そう問い掛けると、アークは首を左に傾け、ダームとザウバーの返答を待つ。アークの言葉を聞いた二人は顔を見合わせ、無言で大きく頷いた。
「かしこまりました。それでは、出発いたしましょう」
アークは柔らかな笑顔を浮かべ、彼らを先導する様にクルークの洞窟へ向かって歩き始めた。