警備兵施設
文字数 1,602文字
「ああ。手掛かりは見つかった」
「それは良かったです。では、私は古文書を元の場所に戻してまいります」
ザウバーの返答を聞いた司祭は、礼拝堂から姿を消した。その後、ザウバーは直ぐにダームの方を振り返る。
「俺達も行くとするか」
ザウバーは歯を見せて笑い、ダームの肩を軽く叩いた。
「どこに行くの?」
ダームの問い掛けを聞いたザウバーは、腰に手を当て背筋を伸ばす。
「アークの所だよ。古文書を見られたのは、奴が俺達を紹介してくれたからだ」
そう答えると、ザウバーは胸を張り自慢気な笑みを浮かべる。
「それに、アークは封印魔法が得意と言っていた。だから、奴は何か手がかりを知ってるかも知れない」
「そっか。封印魔法が得意なアークさんなら、魔王を封印する為の魔法について、何か知っているかも知れないんだね」
ダームは、明るい笑顔を浮かべる。
「わかったんなら話は早い。早速、アークが居る所へ向かうぞ」
ザウバーは、教会の出口へ向って歩き始めた。二人は来た道を辿っていき、アークが居る施設に到着する。その施設は、建物がコの字に建てられており、その中心は大きな広間となっていた。また、建物の周囲には堅牢な壁が施設を守るように存在し、簡単には侵入出来ない仕組みとなっているようである。
施設の入口には数人が入れる広さの小屋があり、受付と書かれた看板が掛けられていた。本来、出入りする者はその小屋で受付を済ませるべきであるのだが、アークを探すことに気を取られたザウバーは、無意識のうちに小屋を通り過ぎてしまう。
そうして施設内に入ったザウバーは、目的の人物を探し当てる為、背筋を伸ばし何度か辺りを見回した。だが、その挙動が引き金となったのか、彼らを不審に思った兵士達が二人の周囲へ集まってくる。すると、囲まれていることに気付いたザウバーは、ダームをかばおうとしてか思わず戦闘体制を取ってしまった。そんなザウバーの動きを警戒してか、集まっていた兵士達は示し合わせた様に剣を抜く。
その上、そのうち数人の兵士達は、無言のままザウバーの喉元へ勢い良く剣の切っ先を向けた。
「お前達、何をしている!」
直後、彼らの行動を制する様に、施設の中心に位置する建物の方から、力強い声が響いた。
兵士達は、驚いた様子で声が発せられた方を見ると、安堵の表情を浮かべ、直ぐに声の主に対して敬礼をした。
「実は、不審な侵入者が二人」
一人の警備兵が事情を説明し始めた瞬間、ダームはそれを遮る様に口を開く。
「アークさん!」
ダームは、出来得る限りの大声を出すと、アークへ自分達の存在を気付かせようと頭上で大きく手を振った。
「ダームじゃないですか。教会での調べ事は、もう良いのですか?」
アークは柔らかな笑みを浮かべ、少年の方へ歩み寄っていく。
「この方達は洞窟の調査を手伝って下さった恩人です。不審者では御座いませんよ」
それを聞いた兵士達は、目を見開き慌てた様子で背筋を伸ばした。
「申し訳ございません。洞窟調査の功労者とは存じ上げ無かったものですから」
一人の言葉を合図とするように、兵士たちはアークへ深々と頭を下げた。
「警備を厳しく行おうとする姿勢は称賛に値します。ですから、貴方達のやった行為を責めることは致しません」
そう言って微苦笑すると、アークは大きく息を吸い込んだ。
「ですが……話も聞かずに剣を向けるのは、感心致しませんね」
アークは、ザウバーへ剣を向けていた兵士の目をきつく見据える。すると、アークの忠告を聞いた兵士は、謝罪の言葉を述べ再び深々と頭を下げた。
「もう良い、直ぐに持ち場へ戻れ」
アークが強く言い放つと、その場に集まっていた警備兵は、まるで蜘蛛の子を散らす様に離れた。アークは、兵達が持ち場へ戻ったことを確認すると、疲れた様子で大きく息を吐き出し、ダームとザウバーの方へ向き直った。