お腹が空いたらお昼ごはん
文字数 2,004文字
鐘の音で来客に気付いた店員は、挨拶をしながら三人の元へ駆け寄った。
「本日は、何名様での御利用でしょうか?」
「三人です」
「かしこまりました。それでは、席に御案内致します」
一礼すると、店員は三人を先導する様に歩き始めた。その後、店員は窓の近くで立ち止まり、日当たりの良い席へ向けて腕を伸ばす。
「お客様の席はこちらになります」
店員の仕草を見た三人は、指し示された席へ腰を下ろした。店員は、三人が席に着いたことを確認した後、テーブルに備え付けられたメニュー表を開いて彼らへ見せる。
「只今の御時間ですと、ランチも御利用頂けますので」
「じゃあ、俺はランチセット」
店員の説明を聞いたザウバーは、間髪入れる事無く注文をした。
「では、私も同じ物を」
「それじゃあ、僕も!」
「ランチセットを三つですね? こちら、お飲物とデザートをお選び頂けますが、如何なさいますか?」
注文を復唱した後、店員はランチセットで頼める飲物とデザートの一覧を指差した。
「俺は、珈琲と果物入りアイス」
メニュー表を見たザウバーは、又しても間髪入れることなく注文をする。その際、注文を受けている店員は、青年の勢いに負ける事無くオーダー表に注文を書き込んでいった。
店員は、彼の注文を書き終えた後、笑顔を浮かべながらダームとベネットの顔を交互に眺めた。すると、それに気付いたダームは、メニュー表に近寄ってセット内容の確認をする。
「じゃあ……僕は、ミックスジュースとだるだる饅頭!」
ダームは店員の目を見つめ、元気良く注文をした。少年の目はきらきらと輝いており、料理が提供される時を楽しみにしている様であった。
「私は、ミルクティーとシフォンケーキで」
「了解致しました。少々お待ち下さいませ」
店員は頭を下げ、直ぐに甘い香りの漂う厨房へ向っていった。
注文を終えてから十数分後、店員はトレイに三人分の料理と飲物を乗せて戻ってくる。しっかりとしたトレイの上には、丸い無機質な容器が乗せられ、微かに香ばしい匂いを漂わせていた。
「お待たせ致しました。こちらがランチセットです」
店員は大きなトレイを左手だけで支えながら、テーブルに三人分の料理を並べていく。店員が料理を置く度に鈍い音が発せられ、容器の質量はかなり大きいことが推測された。
「デザートは、御食事が終わった頃にお持ちします。それでは、ごゆっくり」
笑顔でそう伝えると、店員は空になったトレイを胸に抱え、他のテーブルへ向かって行った。
その後、ザウバーは並べられた料理を眺め、見慣れない容器の形状に目を丸くする。
「こんなお皿、初めて見たよ」
ダームは、小声で話すと丸い陶器をまじまじと眺めた。陶器の器には、堅木で作られた蓋が乗せられており、それは陶器に合わせた形状をしている。
「確かに、こいつは俺も初めて見た。だけど、これは皿じゃ無いだろ。平たくねえし」
ダームの呟きを聞いたザウバーは、そう言うと堅木で出来た蓋をゆっくりと外す。
「メニュー表によると、この料理は釜飯と言うらしい。その名称から判断するに、この容器は釜と呼ばれる様だな」
「釜、ねえ」
彼女の推測を聞いたザウバーは、眼前の容器を見つめながら呟いた。
「兎に角、料理が冷めぬ内に食べてしまおう。色々と話すのは、それからでも遅くない」
「だな。腹も減ったし、料理は作り立てが一番旨いって言もんな」
ザウバーは、そう言うと目の前に用意された料理を食べ始めた。
食事を終えた頃合いを見計らい、店員がデザートを乗せたトレイを持って三人の元へやって来る。
「御待たせ致しました」
そう言うと、店員は三人の顔をそれぞれ見た。
「ナントカ饅頭は僕です」
店員の声に気付いたダームは、小刻みに手を振りながら店員に伝えた。
「こちら、熱くなっておりますのでお気をつけて」
そう言うと、店員は饅頭の乗った平皿を静かにダームの前へ置く。
「こちらが、バニラアイスをベースに、ザク切りの果物を封じ込めたアイスでございます」
店員は、アイスについての説明をしながら、誰が頼んだデザートかを、表情や目線から汲み取る。そうしてから、店員はアイスをザウバーの眼前に置いた。
「こちら、上質の卵を使用して作りましたシフォンケーキでございます」
店員は、最後にシフォンケーキをベネットの前に置くと、一礼をして慌ただしく三人のテーブルから去った。
「小さいとは言え、デザートの容器まで釜とはな」
店員が立ち去った後、ベネットはアイスやケーキの入った容器を眺めながら驚いた様子で呟いた。
「いいじゃねえか、この方が趣あるしよ」
一方、ザウバーは美味そうなデザートを目の前にしている為か、嬉しそうな表情で話した。彼の言葉と表情から、彼は相当な甘味好きである事が窺える。
「じゃあ、溶ける前に堪能するかな」
そう言うと、ザウバーは嬉しそうにアイスを食べ始める。