フォッジへ

　空が明るくなり始めた頃、ザウバーは苛立った様子で少年の頬を掴み、力任せに引っ張り上げる。

「何時まで寝てやがる？　いい加減に起きねえと、置いてくぞ！」
　無理矢理起こされたダームと言えば、まだ明け切っていない空を見上げた。この時、少年の目は半分しか開いておらず、開ききるまで何度も眩しそうに瞬きをした。
　それから、ダームはザウバーの顔を見上げ、不機嫌そうに頬を膨らませる。

「何時まで……って、まだ夜が開けたばっかりじゃん」
　その態度に、ザウバーは呆れた様子で大きな溜め息を吐き、片目を瞑ってダームの顔を見つめる。
　
「明日は早めに出発すると言っておいただろうが。それに、ベネットやモーリーは、既に支度も済んでるんだぜ？」
　ザウバーはベネットらが居る方を軽く見、再びダームの顔を見つめた。ダームは、彼へ釣られる様にしてベネットの方に顔を向け、仲間の顔をぼんやり眺める。

　この時、ダームの瞳に映ったベネットは、昨日倒れた事が信じられない程、凜とした表情を浮かべ佇んでいた。
　
「御免なさい」
　そう言うと、ダームは申し訳無さそうに頭を下げる。
「気にするな。疲れていたのだろうし、普段はこの時間に起きないのだから仕方無い」
　謝罪を聞いたベネットは、ダームの目を優しく見つめて微笑んだ。
　
「そうですよ。私達も起きたばかりですから、気になさらないで下さい」
　すると、ベネットへ続くようにして、モーリーもダームを見つめて微笑んだ。この為、ダームは二人の顔を交互に見やり、彼女らの優しさに対して礼を述べる。
　そんな中、笑顔になったダームを見たベネットは、安心した様子で胸を撫で下ろした。

「とは言え、モーリーを案内するのは早い方が良い。ダーム、直ぐに出発しようと思うが、行けるか？」
　そう問い掛けると、彼女はダームとザウバーの顔を静かに見やった。
　
「僕は大丈夫。ザウバーのお陰で、すっかり目が覚めたし」
　ベネットに問い掛けられたダームは、そう言うと楽しそうに笑い始めた。その後、ダームは自分の荷物を急いで掴むと、他の三人を先導する様に歩き始める。
　
　暫く歩いた後、リンとキーの居る檻の近くに着いたベネットは、静かにモーリーの顔を見る。そして、ベネットはその檻を指し示すと、咳払いをしてから口を開いた。

「あの中にリンとキーが居る。おそらく、私達が近付くと騒ぎになるだろう。だから、此処からは一人で向かって欲しいのだが、大丈夫か？」
　そう問い掛けると、ベネットはモーリーの顔を見つめたまま軽く首を傾ける。

「はい、大丈夫です。元々リューンの事は、私からじっくり言って聞かせたいと思っていたので」
　ベネットに話し掛けられたモーリーは、そう言うと明るく微笑んだ。
　
「了解だ。それでは、二人共納得がいった瞬間に檻が消滅する様、魔法を掛けておく」
「わかりました。それでは、短い間でしたが御世話になりました。皆さんも、お気をつけて」
　そう言って一礼すると、モーリーはリンとキーの居る檻へ向かって歩いていった。程無くして、彼女がリンとキーの居る場所に着いた時、青年は安心した様子で口を開く。
　
「回り道にはなっちまったが、俺達はフォッジに向かうとするか」
　頼もしそうなザウバーの声を聞いたベネットは、反射的に彼の顔を見た。

「そうだな。折角、早く起きたのだ。フォッジへ向かって、今日のうちに出来るだけ多くの情報を集めるとしよう」
「そうと決まれば話は早い。早速、フォッジに向かうぞ」
　ベネットの返事を聞いたザウバーは、そう言うや否やフォッジの方角へ向かって歩き始めた。