モフモフの召喚獣とその力
文字数 2,501文字
「恐らく此処が、リューンの居る森だ」
ベネットは後方を振り返ると、真剣な面持ちで話し始めた。
「で、肝心のリューンとやらが、何処に居るかも分かるのか?」
「それについては、私に任せて欲しい」
ベネットは軽く目を瞑り、呪文を唱え始める。
「変幻自在の力を持つ神獸よ、我に力を貸し賜え……フクス・ツァルテ!」
ベネットが詠唱を終えた瞬間、三人の前には暖かな白煙が立ち上る。その白煙が消えた時、数本のしなやかな尾を持つ生物が、大きな耳介を動かしながら現れた。
その生物は、柔らかな金色の被毛を風に揺らし、丸い瞳でベネットの顔を見上げている。
「フォックです!」
「ルルです!」
ザウバーは、突然現れた生物を眺めると、驚いた様子で半歩後退する。
「なんだこいつら?」
「フォックと」
「ルルだよ」
召喚獸達は、再び甲高い声で名を伝えた。そして、フォックはルルと顔を見合わせると、その尾をゆっくり前後に揺らす。
「いや、名前はわかるんだが」
そう漏らすと、ザウバーは困惑した様子でベネットへ視線を向ける。
「カニファ様の力……と、いった所だ」
問い掛けられたベネットは、ザウバーの方を見ることなく軽い説明を加える。
「あとね……ベネットの、動物の命を助けたいっていう優しい心も、僕達を呼ぶ力になってるんだよ」
ルルは、説明を付け足すかの様に、自分が知っている事を伝えた。
「その話は後でも出来る。今、やって貰いたい事が有るのだ」
一方、ベネットは説明を遮る様に言葉を発し、軽く咳払いをする。
「多少、身に危険が及ぶかも知れない。だが、変化の得意な二人にしか出来ない仕事だ。手を貸してくれないか?」
そこまで話すと、ベネットはフォックとルルを交互に見た。
すると、フォック達は尾を震わせ、肯定の返事をベネットになす。
「では、変化して貰いたい者のイメージを二人に送る。どちらに変化するかは、二人の判断に任せるからな」
そう言うと、ベネットはダームやザウバーに見せた事の無い笑顔をフォック達へ向けた。
「はーい」
「りょーかーい」
明るい声で返答すると、フォック達は楽しそうに飛び跳ね始めた。
「頼もしいな。では、始めるぞ」
二人から肯定の返事を得たベネットは、彼らに掌を向けて目を瞑る。すると、それへ続く様にフォック達も目を瞑り、頭を上下に動かした。
「それでだ。フォックとルルは此の者達に変化し、私をリューンへ貢ぐ振りをして欲しい」
「えっ? いくら振りって言っても、ベネットを何処の馬の骨とも分からない奴に差し出すなんて嫌だ!」
「そうだそうだ! 万が一、ベネットが殺されちゃったりしたら嫌だもん!」
フォック達は、まるで駄々をこねる子供の様に転げ回った。
「心配するな。二人共、私の力を知っているだろう? それに、今は二人も仲間が居る。怪我を負うことすら無い筈だ」
ベネットはフォックとルルを安心させる様に、ふわふわな頭を優しく撫でる。
「そうだぜ。それに、リューンが何かしてきやがったら、俺が消し炭にしてやる」
「ベネットさんには、指一本触れさせないって約束するよ」
自信に満ちた台詞を聞いたフォックとルルは、目を瞑って何かを考え始めた。
「仕方無いなぁ」
「断れ無いなぁ」
それだけ言うと、フォック達は金色の尾を上方に向けて真っ直ぐ伸ばす。そして、彼らが宙に飛び上がると、その周辺には銀色の煙が立ち上った。
フォックとルルが着地した時、銀色の煙は消えた。そして、着地すると同時に、彼らはそれぞれリンとキーへの変化を終わらせた。
「ど?」
「出来てる?」
変化を終えたフォックとルルは、ベネットを見つめながら問い掛けた。
「ああ、流石だな。後は、その可愛らしい口調を変えれば完璧だ」
そうフォックとルルへ返すと、ベネットは彼らに対して微笑み掛けた。
「わーい!」
「やった!」
人間の姿になった二人は顔を見合わせ、互いの手を叩きあわせて喜びを表す。
「では、先程伝えた作戦でいこうと思う。それで良いか?」
ベネットは真剣な表情を浮かべ、落ち着いた声で問い掛けた。
「わかった!」
「了解!」
二人の口調はリンとキーのものに変わり、それを聞いたベネットは安心したように目を瞑った。
その後、ベネットと変化を終えた二人は森の入口に向かい、ダームとザウバーは距離を置きながら三人を追う。
「リューン様。所望された穢れ無き乙女を捧げにまいりました」
森に入った後、リンに化けたフォックは、周囲に響きわたる様な声で話した。
「約束した通り、モーリー姉様を御返し下さい」
彼へ続く様に、キーに変化したルルが、はっきりとした声で言い放つ。
「御苦労。だが、先ずは女を渡せ。モーリーを返すのはそれからだ」
二人の声が聞こえたのか、森の何処からか低く、頭に直接響いてくる様な声が響いた。
「ですが……せめて、姉様の安否が確認出来てからでなければ」
「人間の分際で、我に指図するというのか? 貴様等は、馬鹿なだけでなく愚かでもあるのか? 早く女を渡せ!」
謎の声が大きくなった時、ベネット達の前に、碧色の瞳と長い髪を持つ者が現れた。この為、キーに扮したルルは、掴んでいたベネットの腕を離し、乱暴に彼女の体を前方へ突き出す。
「始めから、素直に引き渡せば良いものを」
リューンはベネットを捕らえる為、自らの手を彼女の方へ伸ばす。
「見くびるな」
低い声で呟くと、べネットはリューンの腹部を力任せに蹴り上げる。不意打ちを食らったリューンと言えば、攻撃を受けた部分を押さえてうずくまった。
「フォック、ルル! 今のうちに行け!」
ベネットがリューンを見据えたまま叫ぶと、フォックとルルは瞬時に変化を解く。元の姿に戻ったフォックとルルは、跳ねる様に森の中を駆けていった。
リューンはうずくまったまま雄叫びをあげると、感情の赴くままにベネットを睨み付ける。
しかし、リューンが反撃する事の出来る前に、ベネットは呪文の詠唱を終えた。すると、リューンの体は魔法によって生じた光の十字架に貫かれ、そのまま粉々に砕け散る。