新たな出会い

文字数 2,177文字

 「ちょっと、そこのアンタ!」
 精一杯大きな声を発すると、ザウバーは荒い息を繰り返しながら立ち止まった。彼の声を聞いた女性は、長い髪を靡かせながら振り返ると、呆れた様子で溜め息を吐く。
 
「無礼だな。初対面の者に対して、その様に呼び掛けるとは」
 苛立った様子で言い放つと、女性はザウバーをきつく睨み付ける。

「悪かった。どこか行っちまう前に呼び止めようと思ったけど、名前が分からなかったからよ」
 ザウバーは、焦った様子で言葉を漏らした。
 
「それで? なぜ名前すら知らぬ者が、焦りながら私を呼び止めようとするのだ?」
 女性は彼から目を逸らすことのないまま、抑揚の無い声で問い掛けていく。

「魔物を一瞬で消し去ったのを見て気になった。それだけだ」
 女性は目を細め、僅かに開かれた瞳からザウバーを見る。
 
「何故それが出来たのか、その理由を知りたいのか?」
 そう言って鼻で笑うと、女性は冷たい眼差しでザウバーを見据えた。

「ああ、あの魔法を使えば」
「誰かが被害をこうむる前に、魔物を瞬殺する事が出来る」
 女性は、ザウバーの言葉を遮る様に話し出すと、冷笑を浮かべながら首を傾げた。
 
「それで? 見た所、貴様は魔法を使えぬ訳でも無いようだ。ならば、更なる力を求めねばならない理由でも有るのか?」
 女性は、威嚇する様な低い声で言い放つと、再びザウバーの目を見据える。しかし、ザウバーは女性の気迫に押されてしまったのか、困惑した様子で言葉を詰まらせてしまった。
 
「話すと長くなる。それでも構わないか?」
 ザウバーの様子を見た女性は、新たな質問を投げ掛け大きな溜め息を吐く。この為、女性の言葉を聞いたザウバーは頷き、驚きながらも肯定の返事をなした。

「ならば、何も言わずに付いて来るが良い」
 そう告げると、女性はザウバーの返答を待つ事無く歩き始めた。
 
 三人は、女性を先頭にして小道を歩き続けていた。その道は相当に細く、小柄な人間同士でさえもすれ違う事が難しい程である。
 女性は、小道を数分歩いた後で立ち止まると、無言のまま二人の方を振り返った。
 
「この先にある小屋の中で、力について話そうと思う。その際に何が起きても後悔しない。そう言い切れるか?」
 その女性は、ザウバーの気持ちを試すかの様に話すと、彼の眼を真っ直ぐに見つめる。
「ああ」
 ザウバーは、そう返答すると彼女の目を見つめ頷いた。

「では、このまま付いて来るがいい」
 女性は、まるでザウバーの考えを見透かしているかの様に笑うと、再び歩きにくい砂利道を進み始める。
 
 暫く歩いた後、女性は煉瓦と木材で作られた小屋の前で立ち止まった。その小屋は、質素な外装ながらも新しく、造りはしっかりとしている。

 女性は後方を振り返ると、小屋の戸を開けてダームとザウバーに中へ入るよう促した。女性は、二人が屋内に入ったことを確認すると、自らも小屋へ入り入口の戸に鍵を掛ける。

 その部屋には小さな窓しかなく、あまり陽が差し込まない室内は昼間ですら薄暗かった。そんな中、女性は更に暗い部屋の奥を見やると、目を細めて口を開く。
 
「出ておいで、ボアリー」
 その声は、今までとは打って変わって優しく、女性の顔には笑みさえ浮かんでいた。
 すると、そんな女性の声へ呼び寄せられる様に、体長が彼女の倍は有ろうかという大蛇が小屋の奥から現れた。大蛇は、音もなく女性へ近付くと、ゆっくりと鎌首を擡げ、琥珀色の瞳で女性を凝視する。
 
「紹介しよう、この仔はボアリー。私に付き従っている者だ」
 そう言うと、女性は静かに膝を付き、大蛇の頭を慈しむ様に撫で始めた。大蛇を見たザウバーは、何事も無かったかの様に頷き、そのまま女性の言葉を待つ。

「驚かない……か」
 そう言って立ち上がると、女性は微かに口角を上げ、ザウバーへ白い手を差し出した。
 
「我が名はベネット。それ以上でも以下でもない」
 自らの名を告げると、べネットはザウバーの眼を真っ直ぐに見つめる。そんなベネットの仕草を見たザウバーは、慌てた様子で手にかいた汗を自らの上着で拭った。
 
「俺はザウバー。ザウバー・ゲラードハイトだ」
 彼は、自らの名を彼女へ告げると、女性が差し出した手を強く握った。その後、ダームが自己紹介を終えると、ベネットは一歩後退し、その場で呼吸を整えた。彼女は体の向きを大蛇の方へ向けると、琥珀色の瞳を見つめ首を傾ける。
 
「記憶の宝玉を出しておくれ」
 ベネットが優しい声で語り掛けると、大蛇は静かに天井裏へと姿を消した。

「私が力を得た方法を、記憶の宝玉を用いて説明する」
 彼女が話している間に、ボアリーは天井裏から掌に乗る大きさの宝玉をくわえて降りて来る。大蛇は、ベネットの前へ移動すると首を擡げ、銜えている宝玉を彼女に受け渡した。
 
「有難う。終わるまで時間が掛かるから、奥の部屋で休んでおいで」
 ベネットが優しい声で話し掛けると、ボアリーは小屋の奥へ静かに消えていった。

「さて、これからが本番だ」
 呟く様に言うと、ベネットはその宝玉を両手で包み込む様に持ち、目を瞑って魔力を込め始めた。すると、宝玉は宙に浮き上がり、天井へぶつかる直前で静止する。
 
 宙に浮かぶ宝玉は淡い色の光を放ち、部屋の壁には神殿と思しき光景が映し出される。ベネットは、その光景を利用して、ザウバーの疑問に対する説明を始めた。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになる少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児タイプ。

 

 HEIGHT::158cm

 WEIGHT:51kg

 HEIR COLOR::Brown

 EYE COLOR::Blue


ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
インテリ系が故に体力は無い。
その分、魔力は高い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
割とブラコン。

 

 HEIGHT::186cm

 WEIGHT::63kg

 HEIR COLOR::Black

 EYE COLOR::Dark Brawn

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。


 HEIGHT:192cm

 WEIGHT:75kg

 HEIR COLOR:Brawn

 EYE COLOR:Dark brawn

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。

OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

 


 HEIGHT:167cm

 WEIGHT:48kg

 HEIR COLOR:Black

 EYE COLOR:Brawn


モーリー

 


 HEIGHT:157cm

 WEIGHT:42kg

 HEIR COLOR:Dark brown

 EYE COLOR:Black

 

聖霊の名を語るリューンによって、呪縛を受けていた女性。

バームクローネ家の長女。



リン・バームクローネ
 

 HEIGHT:163cm
 WEIGHT:48kg
 HEIR COLOR:Darkbrown
 EYE COLOR:Black
 
バームクローネ家の長男。
キーとの関係は、双子の兄。

キー・バームクローネ
 
 HEIGHT:161cm
 WEIGHT:47kg
 HEIR COLOR:Darkbrown
 EYE COLOR:Black
 
バームクローネ家の次男。
キーとの関係は、双子の弟。

リューン

 

 HEIGHT:182cm

 WEIGHT:65kg

 HEIR COLOR:Green

 EYE COLOR:Green

 

聖霊の名を語ってバームクローネ兄弟を騙し、女性等を貢がせていた魔族。
再生力は恐ろしいが攻撃力は余り無い。

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