旅の準備

「ところで、次は何処へ向かう予定だ？」
「プリトスまで行こうと考えている」
　ベネットは頷き、左手を顎に当てながら天井を仰ぐ。
　
「分かった。プリトスは然程遠く無いが、最近は魔物が増えてきていると聞く。準備は万端にした方が良い」
「だな。魔物が増えているのは感じていた。それに、警戒するに越したことはねえ」
　ザウバーは考えを述べ、ベネットの目を見つめ返して微笑んだ。
　
「感じていたなら話は早い。話は変わるが、この小屋には食料を蓄えてある。だから、プリトスへ移動する際の食料準備は私に任せてくれ」
　ザウバーはベネットの話に頷き、ダームは嬉しそうに肯定の返事をなした。

「マルンには、小さいながらも武具店がある。もし、武器や防具を買い替えたいのなら案内しよう」
　ベネットはダームの顔を覗き込み、柔らかな笑顔を浮かべる。
　
「前の街とは売っている物が違うかも知れないし、行ってみたいな」
「そうか、では案内しよう」
　ベネットは、そう言うと小屋の戸を開け、二人へ外に出るよう促した。
　
　その後、ダームとザウバーは、ベネットに案内されるまま武具店へ向かっていった。
　目的地に到着すると、ダームは楽しそうに武具店へ入り、ザウバーは彼の後を追う形で店へ入った。しかし、ベネットだけは、彼らが店内に入ったことを確認すると、直ぐに小屋へ帰っていく。

　そうして、彼らが武具店に向かってから一時間もしないうちに、ダームとザウバーは小屋へ戻ってきた。
　
「気に入ったものは有ったか？」
　ベネットの質問を聞いたダームは、恥ずかしそうに彼女から目を逸らしてしまう。

「気に入った防具は、サイズが大き過ぎたんだよな！」
「何も、ばらす事は無いじゃないか！」
　理由をばらされたことが恥ずかしかったのか、ダームの顔は真っ赤に染まった。
　
「仲が良いのだな」
　ベネットは小さく声を漏らし、悲しそうな表情を見せた。しかし、彼女の声は二人に聞こえなかったのか、ダームとザウバーは顔を見合せながら他愛の無い言葉を言い合っていた。
　
「食料の準備は整っている。しかし、夜は魔物の動きが活発になる上に移動も困難だ。時間的に、今からプリトスへ出発するのは危険だろう」
「確かにな。今は辛うじて明るいが、これからプリトスに向かえば途中で夜になっちまう」
　ベネットの提案を聞いたザウバーは、軽い溜め息を吐く。
　
「そこで提案なのだが、出発は明朝にしないか？　もし、泊まる場所を決めていないのなら此処に留まれば良い」
　そう言うと、ベネットは部屋の中を見渡した。

「そうだな……朝早くに出りゃ昼前には着くだろうし、その意見に賛成だ。それと、これからの事を考えても、なるべく金を使いたくねえ。ベネットさえ良ければ、ここに泊めて欲しい」
　ザウバーは、自らの考えを述べると、ベネットの目を真っ直ぐに見つめた。
　
「判った。大したもてなしは出来ないが、泊まってくれ」
　ベネットは、言いながら小さく頷くと、廊下へ続くドアに向かって歩き始める。

「この小屋には、幾つか部屋がある。決して広いとは言えないが、寝る分には困らないだろう。好きな部屋を選んで荷物を置いて来ると良い」
　簡単な説明を終えたベネットは、ダームとザウバーの意見を伺う様に彼らの顔を見た。
　
「分かった」
　ザウバーは、それだけ言うと直ぐに廊下へ向かっていった。

「あ、待ってよ！」
　この時、青年に置いて行かれそうになったダームは、慌てた様子で声をあげる。彼は軽く頬を膨らませると、小走りでザウバーの後を追い掛けていった。