マルンへ続く道
文字数 1,021文字
二人が歩き続けていくと、彼らの進行方向からはまるで獣が咆哮している様な音が聞こえてくる。
「なんだか騒がしくない?」
そう言うと、彼は道の先に何が有るか確かめようとした。背伸びをしながら辺りを見回したダームは、目線の先に異形の生物を認め目を見開く。
「あそこに集まっているのって……魔物?」
彼は驚いた様子で声をあげると、震える指先で道の先を指し示す。ダームが指差す先には、黒い体毛に覆われ成人程の体高を持つ生物と、それらに囲まれた人の姿が在った。
その生物は、蠍の様な姿をしており、その前方に備えた鋏を一人の女性へと向け広げてい
た。
「誰か囲まれてんじゃねえか!」
そう言い放つと、ザウバーは女性を助けようと前方へ向かって走り始めた。
「れよ……ホーリークロス!」
騒ぎの中心からは、透き通る様な声が響きわたった。
すると、その声を合図とする様に、女性の周りには十字架の形をした閃光が幾つも現れた。その十字架は白い光を発すると、真っ直ぐに魔物へ向って飛んでいく。不思議なことに十字架へ少しでも触れた魔物は、一瞬にして跡形も無く消え去ってしまった。
その光景を見たザウバーは、何体もの魔物が消えた事に酷く驚き、荒い呼吸を繰り返しながら立ち止まる。
「何だ、あの魔法」
彼は、目線を前に向けたまま声を漏らすと、息を飲みながら後退した。
「魔物を倒したのって……あの人なのかな?」
ダームはザウバーの横に立ち、先程まで魔物に囲まれていた人物を差し示す。ダームが指差した先には、白色のローブに身を包んだ女性が、彼らに背中を向けて佇んでいた。
そのローブは、女性の全身を覆っており、長い黒髪は日の光を受けて輝いている。また、女性の腰には革製のベルトが二本掛けられており、それぞれに護身用と思しきダガーが結わえつけられていた。
女性は軽く頭を振るうと、二人がいる場所とは反対方向に歩き始める。
「他に人も見当たらねえし……そうみたいだな」
途切れ途切れに話すと、ザウバーは女性の背中をしっかり見つめる。そうしてから、彼は気を落ち着ける為、大きな深呼吸を繰り返した。
「追いかけるぞ!」
そう言うや否や、ザウバーはダームの返答を待つ事無く走り始めた。
ザウバーは、女性に話を聞こうと、懸命に彼女の方へ駆け寄り口を開く。