燃え盛る村
文字数 1,353文字
彼が着ている服は、暖かな気候の為か裾や袖が短く、仄かに日焼けをした肌には小さな傷が幾つか有った。少年の柔らかな髪は、切り揃えられてこそいなかったが、光を浴びて輝く様は美しくさえもある。
少年が茶褐色の髪をなびかせながら走っていると、辺りの空気は囁く様な音を発した。青々とした木々に住まう鳥達は、少年の動向を探る様に首を伸ばし、彼が通り過ぎる時を待っている。しかし、その鳥達に警戒をしている様子は無く、それらの目線は少年を見守っている様でさえあった。
少年は、うっすらと汗をかく程に走った後、森の中で一番大きな木の前で立ち止まる。その木の上方には、木片で作られた簡素な小屋が有った。また、その入口の下方にある枝には、太い蔓が絡みついていた。
少年は、額の汗を拭ってから空を仰ぐと、太い枝から垂らされた蔓を掴み、器用に木を登っていく。程なくして、少年は板を継ぎ合わせただけの簡素な小屋へ入った。彼は、満足そうに目を細めると、小屋を大きく揺らさない様、ゆっくりと床に腰を下ろす。
彼は、付着した汚れを手を叩き合わせることによって払うと、小屋の入口から森の景色を見渡した。その入口からは、生き生きとした木々だけでなく、古めかしい小屋が点々と存在する集落が見える。
暫く景色を楽しんだ後、少年は小屋の床に敷かれた毛布を一瞥した。彼は、右手でその感触を確かめ、毛布の上で横になった。元は白かったであろう毛布は、使い込まれているのか所々薄汚れており、そのことから彼が頻繁に小屋へ赴いていることが窺える。
その後、少年は腕を横に伸ばすと細く息を吐き出し、目を瞑って夢の世界へと落ちていった。
それから数時間が経ち、少年は大きく息を吐き出しながら目を開いた。彼は間の抜けた声を漏らすと、横になった状態のまま腕を伸ばす。すると、少年の体重の掛け方が悪かったのか、彼が居る小屋は低い叫び声をあげながら彼の頭の方へ小さく傾いた。
少年は、首だけを動かして小屋の外を眺め、大きな欠伸をしながら目を細めた。少年の瞳には紅色に染まった空が映し出され、彼は暗くなる前に帰ろうと立ち上がる。
しかし、少年は立ち上がって外界の光景を見るなり、力無く小屋の床へ座りこんでしまった。少年は恐々と口元を押さえると、その恐怖や焦りから小刻みに震え始める。
何故なら、彼が夕焼けだと思った空の色は、集落の家々が燃えている炎に依って染まったものだった。少年がその事実に気付いた時、小屋は突然の衝撃に対して鈍い悲鳴をあげ、彼が座り込んだ方向へ大きく傾き始める。
それから暫く、少年は呆けた表情を浮かべ、燃え続ける村を眺めていた。それでも、彼は深くゆっくりとした呼吸を何度も行い、何とか気持ちを落ち着かせようと試みる。
その後、少年は緊張によって粘度の上がった唾液を飲み込むと、意を決したかの様に立ち上がった。
しかし、立ち上がる際に勢いをつけすぎた為か、はたまた小屋の造りが弱かった為なのか、少年は不覚にも小屋の床を踏み抜いてしまう。
少年は突然の出来事に慌て、所々に木の根が突き出る地面へと落ちていった。