お礼の提案と古の文献
文字数 1,214文字
ダームとザウバーが救護室を訪れた事に気付いたアークと言えば、ベッドから起き上がり二人の方へ向き直った。
「魔力は回復しておりませんが、体力は元に戻った様です。これも御二方のお陰です、有難う御座いました」
丁寧に礼を述べると、アークは二人に対して深々と頭を下げた。
「困った時は、お互い様だ。アークだって、俺が洞窟で倒れそうになった時に、回復術をかけてくれたしな」
「そうだよ。それに、僕なんて結局は何も出来なかったし」
ダームは、小声で話すと目を伏せ、苦笑いを浮かべる。
「そんな事は御座いませんよ。ダームは、ずっと私の傍で心配をしてくれていました。その暖かい気持ちで、大分癒やされましたから」
アークはダームの肩に手を乗せ、優しく微笑み掛ける。
「それで……同行して下さった事も含め、御二方に何か礼がしたいと考えております」
アークは、そこまで話すと二人の顔を見つめ、小さく首を傾けた。
「相応の銀貨をお渡ししようと考えておりますが、他に何か希望するものはございますか?」
ダームとザウバーに問い掛けると、アークは柔らかな笑顔を浮かべる。
「だったら、ヘイデル教会で保存されている五千年前の文献とやらを見せてくれ」
「教会に保存されている文献……ですか?」
「ああ、気になる事があってな」
ザウバーは難しそうな表情を見せ、部屋の天井をぼんやり見上げる。彼の言葉を聞いたアークは、暫く考え込んでからザウバーに向き直った。
「わかりました。私から御二方の活躍を司祭様へ話し、見せて頂ける様に取り計らいたいと思います」
アークはザウバーの問い掛けに答えると、気まずそうに微笑んだ。
「とは言え、五千年前の文献ともなると、教会関係者ですら滅多に見られない書物です。ですから、あまり期待をなさらないで下さい」
「俺達だけで頼んだんじゃ、教会側に不審がられるのは目に見えている。だから、アークには司祭への進言を頼む」
そう言うと、ザウバーは手の平を合わせ、アークに対して深々と頭を下げた。
「かしこまりました。では、教会までご案内致します」
アークは、二人を先導しながら教会へ向かって行き、重々しい礼拝堂の扉を開ける。そして、彼は扉を開けたまま二人へ中に入るよう伝え、自らも礼拝堂へ入ると静かに扉を閉めた。礼拝堂には、ステンドグラス越しに柔らかな光が差し込んでおり、それが室内を優しく暖めている様であった。
アークは、再び二人の前に歩み出ると、静かに祭壇の前まで進んで行く。そして、彼は軽くダームとザウバーに目配せをし、司祭を見つめて跪いた。
司祭の手や顔には深い皺が刻まれており、そこから彼が長い時を生きてきた事が伺える。
その後、アークは左手を胸に添えると、軽く目を瞑って深々と頭を下げた。