不思議な小屋
文字数 1,484文字
すると、小屋の中では青々とした太い蔓が複雑に絡み合っており、それが彼らの行く手を阻んでいた。
「これはひどいな。だが、中に人が居る可能性を否定できない。慎重に蔓を外していくとしよう」
「だな。万が一にも、人を傷付ける訳にはいかねえ。時間は喰うかもしれねえが、丁寧に蔓を外すか」
ザウバーは、そう返すと袖を捲って蔓に手をかけた。しかし、ザウバーが渾身の力を込めても、絡み合った太い蔓は全く動く様子が無い。
「変わってくれ」
ベネットは、落ち着いた声でザウバーへ告げると、蔓に手を触れて目を閉じる。すると、生き生きとしていた蔓は、彼女が触れている部分を中心に次々と力無く枯れていった。
「すげえな! これで何とか入れそうだ」
ザウバーは、枯れて細くなった蔓を力任せに引っ張った。しかし、枯れてもなお簡単には引き千切れず、絡み合った蔓は容易にはほどけない。
「元の量が多いせいで絡まってんな」
「そこは僕に任せて!」
ザウバーの呟きを聴いたダームは、剣を抜いて絡んでいる蔓を切断した。
「よし、この方法でどんどんいくぞ」
そう言うと、ザウバーは小屋の中から新たに枯れた蔓を引き出した。その蔓を少年は剣で切り離し、分離した蔓をべネットが小屋の外へと運び出す。
そうして三人は作業を分担し、小屋の蔓を次々に排除していった。
蔓を外し始めてから暫くしたところで、ザウバーが蔓の中から人間らしき姿を見つける。
「とうとう人の姿が見えたな」
この為、ようやく目的とするものを見つけた青年は、嬉しそうな声を漏らした。
「そうだな。ここからは慎重に作業するとしよう」
ベネットは、ザウバーへ注意を促す様に言葉を発した。すると、ザウバーは小さく頷き、蔓に捕らえられた人間を傷つけない様、丁寧に蔓を外していく。
ザウバーは、女性の体が自重で傾き始めた時も、その体を支えながら器用に蔓を外していった。暫くして、絡み付いていた蔓を全て外したザウバーは、女性を小屋の床に優しく寝かせる。
「早く回復してくれるといいね」
助け出された女性を見たダームは、明るい声で言葉を発した。すると、ダームの明るい声に反応したのか、蔓から解放されたばかりの女性は苦しそうな声を出しながら目を開く。
「気が付いたな。体は大丈夫か?」
ザウバーは、女性の瞳を見つめながら優しく話し掛けた。
「はい。それで、あなた達は一体?」
ザウバーの問い掛けを聞いた女性と言えば、掠れた声を絞り出す様にして言葉を発した。
「俺はザウバー。他の二人と、リューンに捕らえられたモーリーを助ける為に此処迄来た」
「……リューン? モーリー? 私は、妙な二人組に捕まって」
「つかぬ事を伺いますが、あなたの御名前は?」
質問を受けた女性は、何度か頭を横に振った。すると、赤みがかった彼女の髪から、枯れた蔓の欠片が静かに落ちる。
「私はローザと言います。あの、私の友人も一緒に捕まったのですが、ご存知ないでしょうか?」
「この小屋からは、今のところ貴女しか見つかっていない。だが、友人が捕らえられているというなら助けよう」
ローザの話を聞いたベネットは、そう言うと彼女へ優しく微笑みかける。
「だな。一緒に捕らえられたんなら、この小屋の中に居る可能性が高い。とっとと、そいつも引っ張り出してやろうぜ」
そう言うと、ザウバーは再び蔓を外し始めた。その一方で、作業中に女性が怪我を負うことを案じたベネットは、ローザに外へ出るよう伝える。