獣人との別れ
文字数 1,153文字
ルピスは、集会場を出ると尾を横に振り、楽しそうに三人を案内し始めた。程なくして彼は村長の家に到着し、安心した様子で入口の戸を叩く。
すると、屋内からは村長のものと思しきしゃがれた声と、ゆっくりとした足音が聞こえて来る。そして、その足音が止まったかと思うと、家の戸が開いて村長が顔を覗かせた。
それに気付いたベネットと言えば、村長に対して深く頭を下げる。
「私達は、これからノイキュステの街に向かいます。短い間でしたが御世話になりました」
村長は、何かを確かめるように小刻みに頷く。
「いやいや、気にする事はない。それより、ノイキュステに向かうと言っておったな。じゃったら、儂等が使っている近道を教えよう」
村長は、落ち着いた口調で提案をすると、三人に対して微笑みかける。しかし、村長の言葉を聞いたベネットは、慌てた様子で首を振った。
「何も、そこまでして頂く事は」
「いや、ルピスに笑顔をくれたのじゃ。これ位はやらせとくれ」
ベネットの声を遮って言うと、村長はゆっくり外に出た。それから、村長はべネットの前に立つと、彼女らを先導する様に歩き始める。
村長は、家の裏へ進んでいき、緑に包まれた獣道を指し示した。
「ここじゃ。ちときついかも知れないが、ノイキュステに行くなら、普通の山道を行くより早く到着出来る」
そこまで説明すると、村長は頭を下げて踵を返す。この時、ルピスは名残惜しそうにベネットの顔を見つめるが、村長に手を引かれてその場から離れていった。
彼は、三人が見えなくなるまで手を振り続け、それへ応じる様にダームとベネットも手を振った。そして、村長とルピスが近くに居なくなった時、ベネットはダームとザウバーへ目線を送る。
「折角の御厚意だ。この道を使ってノイキュステに向かおうと思う。二人共、行けそうか?」
そう問い掛けると、彼女は仲間の目を見つめて首を傾ける。
「どんな道か知らねえが、早く到着するに越した事はねえ。この道を使って、ノイキュステに向かおうぜ」
問い掛けられた青年は、そう言うと質問主に対して微笑んだ。
「そうだね。せっかく、村長さんが教えてくれたんだし。それに、僕はザウバーと違って山の移動に慣れてるから平気だよ」
少年は、ベネットの方を向いて話すと、歯を見せて笑う。彼の話を聞いたザウバーはダームの頭を叩こうとするが、少年はそれを軽くかわしてみせた。
「そうか。では、早速ノイキュステに向かうとしよう」
そう言うと、ベネットは村長が指し示した道を歩き始める。彼女を追う様にダームも歩き始め、ザウバーは二人の背後を守る様に進んでいった。