大きな街の案内板
文字数 1,103文字
辺りを見回しながら街の入口付近まで来たダームは、楽しそうに案内板へ駆け寄っていく。いち早く案内板の前に立ったダームは、そこに書かれた図を凝視し、難しそうな表情を浮かべて唸り始めた。
数拍の後、ザウバーも案内板の前に立ち、目的地である大学の場所を探し始める。ベネットは、そんな二人の背後から案内板を覗き込んだ。
「B3エリア。つまり、メルタト大学が有るのは、街の北西のようだな」
「B3エリアって?」
ダームは、ベネットの方を振り返って問い掛けた。
「案内板を見れば、現在地を確認することが出来る。そして、現在地の分からない状況では、向かう先も曖昧になっていることが多いものだ」
ダームの疑問を聞いたベネットは、ゆっくりとした話し方で説明を続ける。
「その様な時の為、案内板に描かれた地図の下には、有名な施設の一覧がある。そして、そこに書かれた施設名から、その大まかな位置を調べる事が出来る様になっている」
そう言うと、ベネットは案内板に書かれた〔メルタト大学---->B3〕という一文を指し示した。
そこまでの説明を聞いたダームは、彼女の指先を見ながら納得したように頷く。
「ところで、B3の意味って何?」
「案内板は、利用者が地名や番地を知らなくとも、目的地の位置が分かる様に作られているものだ。地図は等間隔に直線で区切られている。そうして区切られたエリアには、左からAB……と英字を割り振ってある。同様に上から下へは数字が割り振られ、地図は細かなエリアに区切られる」
ダームから質問を受けたベネットは、丁寧に説明を加えていく。それから、彼女は目線を案内板へ移すと、その左上辺りを静かに指し示した。
そこには、黒字で「B」という文字が書かれており、ダームはそれを見上げ目を瞬かせる。
「今回の場合は、B3エリア」
言いながら、ベネットは指を下へと走らせていき「メルタト魔術大学」と書かれた場所で指を止める。
「地図上で区切られたエリアのうち、B3は左から2番目、上から3番目のエリア。そのエリアに、大学が在るという訳だ」
説明を終えたベネットは暖かな笑みを浮かべ、そのままダームの目を見つめた。
しかし、当のダームは良く理解が出来なかったのか、ベネットへ曖昧な言葉だけを返した。
「とにかく、場所が判ったなら話は早い。早速、大学に向かおうぜ」
ザウバーは、そう言うと二人の返答を待つ事無く、大学へ向かって歩き始める。
その後、彼らは街道を進んでいき、高い建物が立ち並ぶ一角で立ち止まった。それらの建物の周りには、大学の敷地が何処まで広がるかを示すように、大人の身長程の塀が並んでいる。