封印術と聖霊の力
文字数 1,458文字
彼は、言いながら姿勢を正すと、申し訳無さそうに頭を下げる。
「そんな……頭を上げてよ、アークさん」
「そうだぜ? いくら一人が子供だとは言え、いきなり二人も入って来て警戒しない方がおかしいからな」
二人の言葉を聞いたアークは顔を上げ、安堵の表情を浮かべた。
「そう言って頂けると助かります」
ザウバーはアークの目を見つめ、いつになく真剣な表情を受かべて口を開く。
「ところで、アークに聞きたい事が有るんだが」
ザウバーは気まずそうに苦笑し、何度か軽く頭を掻いた。
「確か、アークは封印魔法を得意としていたよな?」
ザウバーはアークへ確認を取るかのように、目を細めて彼の顔を見る。すると、ザウバーの言葉を聞いたアークは、無言で小さく頷いた。
「教会で見た古文書によれば、強力な封印魔法で魔王を封印したらしいんだが……何か、その魔法について知っている事は有るか?」
質問されたアークは、顎に手を当てその質問に対する答えを考え始める。
「魔王を封印する魔法ですか……私自身、使う事はおろか詳しい事すら存じません」
アークは苦笑し、申し訳無さそうな表情を浮かべた。
「ただ、強力な魔法を使う為には、この世界に存在する聖霊の力を得るべき……ということなら聞いた事が御座います」
「聖霊の話なら、僕も知ってる!」
少年は声をあげ、自慢気な笑顔を浮かべる。
「光と闇は対ながらも寄り添い、火と水は互いに存在を主張する。地と風は場所を違えて共に有り、草木と獣は、戦いつつも支え合う。それらを支配せし聖霊ここに有らん……でしょ?」
「そうです。そして、肝心な聖霊の力を得る方法なのですが……これは、実際に聖霊と対峙する時まで分からないとされています」
アークは難しそうな表情を浮かべ、言葉を詰まらせてしまう。
「それらの聖霊には、どうやったら会えるんだ?」
「聖霊と出合うには、聖霊が存在するとされる場所で強く願う。その強い願いによって、各々の聖霊が現れると聞いたことがございます」
アークは、ザウバーの質問に戸惑いつつも、淡々と聖霊についての説明を加えていく。
「また、聖霊が存在する場所ですが……その資料は、メルタト魔術大学に有ると聞き及んでおります」
一通りの説明を終えると、アークは安心した様子で息を吐き出した。
「メルタト魔術大学か、この街からだと少し遠いな」
アークの説明を聞いたザウバーは、そう声を漏らすと俯き眉間に皺を寄せる。
「そうですね。ですが、ここヘイデルとメルタト魔術大学の有るプリトスの街は、交易が盛んです。もし宜しければ、私の方から足を用意致しますよ」
「いや、それには及ばねえ。歩いて移動した方が、人を襲う魔物を倒せるし、色々と情報を仕入れられるからな」
「では、マルンを経由すると良いでしょう。多少は遠回りになりますが、一気にプリトスを目指すのは、体力や食糧の面から考えて厳しいと思われますので」
それを聞いたザウバーは、暫く考えてからアークの顔を見る。
「旅慣れていないダームも居ることだし、一気にプリトスまで向かうのはきつい。アークの言う通り、マルンを経由して行くことにする」
「かしこまりました。それでは、お気をつけて」
アークは掌を胸にあて、そのまま深々と頭を下げた。すると、それを見たザウバーは歯を見せて笑い、アークに背を向けて歩き始める。
彼が歩き出したことに気付いたダームは、一度アークに向かって頭を下げると、急いでザウバーの後を追いかけていった。