捉われていた女性の過去
文字数 2,107文字
モーリーは、悔しそうに唇を噛み締めた。
「しかし、力と引き替えに、私達はリューンへ供物を捧げることを強制されました。初めは、街へ行けば簡単に得られる様な物品だったのですが」
そこまで話すと、モーリーは苦しそうに言葉を詰まらせてしまう。
「調子に乗ったリューンは、段々と無理な要求をしてきた……という所か」
「はい。最近では生きている人間。それも、穢されていない女を捧げよ……と」
モーリーは、涙を流して俯いてしまう。
「そして、ついに要求された供物を調達出来なくなった時、その代償として私は捕らわれました」
その後、モーリーは一言一言を絞り出す様に発し、気持ちを落ち着ける為に深呼吸をする。
「更にリューンは、女性達を捕らえておく為の魔力を、私から無理矢理調達していました。閉じ込められていたのはその為です。そして……リューンは、その種から生じた蔓で女性たちを絡めとり、それを眺めては快楽を覚えていた様です」
そこまで話すと、モーリーはベネットの顔をじっと見た。
「それは、捕らえられている間も、意識が有ったという事か?」
「はい。しかし、それは捕らえられてから暫くの間だけでした。私の体から魔力が流れ出して行くにつれ、何も感じる事が出来なくなっていきました」
そこまで伝えると、モーリーは唇を噛み、俯いた。
「辛かったのだな。だが安心して欲しい、二度とこの様な悲劇が起きぬ様、リューンを滅しておく」
そう言うと、ベネットは優しく微笑んだ。
「だな。今の話を聞いたからには、黙っちゃいられねえ。奴を捕まえてある所に行って、倒しちまおうぜ」
そう言うやいなや、ザウバーは勢い良く立ち上がる。
「でも、リューンに攻撃は効かないんだよね? どういう体なのか分からないけど、バラバラにされても直ぐ元に戻ったし」
二人の会話を聞いていたダームは、不安そうに仲間の顔を見つめる。
「そうだったな。ただリューンを攻撃するだけでは、死なぬのだったな」
ベネットは、ダームの方へ向き直り深い溜め息を吐く。
「魔法で封印出来ないのかな? 今だって、ベネットさんの魔法でリューンを閉じ込めている訳だし」
ダームはベネットの顔を見上げると、懇願するような声で問い掛けた。
「確かに、あの魔術でリューンを捕らえる事は可能だ。だが、あの檻は外部からの攻撃には弱い。意図的であろうがなかろうが、外部からの打撃があれば檻が壊れ、容易に逃げ出されてしまう」
「で、俺は封印魔法に詳しくない。封印魔法に詳しかったら、クルークの洞窟でアークに協力していたしな」
そう言うと、ザウバーは申し訳無さそうにダームの目を見た。この為、二人の話を聞いた少年は、残念そうに肩を落とす。
その時、静かに成り行きを見守っていたモーリーが、恐る恐る口を開いた。
「あの……これは、私の推測なのですが、リューンは光に弱いと思います」
「光に弱い?」
モーリーの発した言葉を聞いたベネットは、驚いた表情を浮かべて聞き返した。
「供物を捧げるのは、あまり光の届かない森の深部でと決められていました。それに、私が捕らえられてから意識を保てていた間だけの話ですが、リューンは一度も昼間に活動をしていませんでした。なので、もしかしたら光に弱いのでは……と」
モーリーは、自分の考えを説明すると、恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「どうやら、光を嫌う可能性は有る様だな」
ベネットは眉間に皺を寄せ、真剣な表情で何かを考え始めた。
「そういえば、ベネットさんって、光聖霊の力を使えるんだよね? だったら、本当に光が苦手かどうか試してみようよ」
ダームはベネットの顔を見つめ、明るい声で提案をした。
「そうだな。試す価値は有るだろう」
そう言うと、ベネットは小さく頷いてみせた。
「ただ、力を使っている間は、私から離れていて欲しい。リヒト様の力を強く放出すると、魔物でなくとも衝撃を与える可能性が有る」
ベネットは、真剣な面持ちでダームの顔を見つめ、低い声で自らの考えを伝えていった。
「えっと……そんなに凄い力を出すの?」
ダームは、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。
「平生リヒト様の力を使う時は、その力の一割も使ってはいない。先程リューンと対峙した際に使った魔法でも、そうしていた」
ベネットは、そう説明を加え目を瞑る。
「あの強さの力で復活されるとなれば、更に強い力で浄化するより他にあるまい」
ベネットは静かに立ち上がり、誰の返事も待つ事無く小屋の出口へ向かった。
「つまり……さっきよりも強い力を出さなきゃなんねえから、その分リスクも負うって事か」
その様子を見ていたザウバーは、何かを確かめる様に話し掛ける。
「ああ。故に、リューンの元へ向かうのは、私だけで良い。二人は、モーリーを守りながら体を休めていてくれ」
ベネットは振り返らずに伝えると、意を決したかの様に小屋を出ていった。