魔王と聖霊
文字数 1,512文字
「ベネットさん。人間の心にある闇が魔王を生み出したって言ってたけど、どういう事? しかも、闇の力を以て復活するって」
「これは私の推測だが、誰しもが持っている負の感情……それが
そこまで伝えると、ベネットは何度か大きな呼吸を繰り返す。
「また、魔王を封印する為には、強大な力が不可欠だ。しかし、その力を持つ光聖霊リヒト様は、光の神殿から長く離れる事が出来ない。それ故、穢れ無き魂を受け継いだ私に魔王の封印を委ねたのだ」
そこまで説明を終えると、ベネットは優しくダームの瞳を見つめる。
「だったら……なんで魔王が復活しちまってるのに、こんな所に居るんだよ」
「リヒト様は、こうも言われたのだ。今は力を蓄え、強い志を持つ者と澄んだ瞳を持つ者来たる時、その者達を仲間とし、旅立つが良い。さすれば、更なる力を与えよう……と」
低い声で言い放つと、ベネットは冷笑を浮かべる。
「リヒト様は、その者達が魔王を封印せんとしているとも仰っていたな」
そう言うと、ベネットは二人の顔を交互に見る。
「率直に言う、私を旅に同行させてはくれないか?」
ダームとザウバーはひどく困惑し、顔を見合わせる。
「説明した通り、私は聖霊から認められた者だ。魔物に出くわしたとしても、足手まといにはならない。それに、聖霊の力を手に入れている者が居た方が、何かと都合も良いのではないか?」
聞き手が困惑しているにも関わらず、ベネットは淡々と話を続けていった。そして、彼女は大きく息を吐き出すと、ザウバーの目を真っ直ぐに見つめる。
「確かに、わからないこともねえけどよ」
「全聖霊の力を手に入れ、自ら魔王を封印したいのだな?」
ベネットは、ザウバーの気持ちを見透かしているかの様な表情を浮かべる。
「相対する聖霊の力を一人で持つと、それらの力が相殺されてしまうと言う。ならば、私が持つ力と相対する聖霊の力、それらを手に入れる方が効率的だ」
そう言うと、ベネットはザウバーの顔を覗き込む。
「即ち、光聖霊リヒトに相対する闇聖霊スクルト。獣聖霊カニファに相対する草木聖霊ファンゼだ」
ザウバーは困惑した様子を見せながらも、直ぐにその意見を受け入れた。
「火聖霊と水聖霊……地聖霊と風聖霊については、実際に聖霊と対峙してから決めようと思うが、それで良いか?」
そこまで伝えると、ベネットはまるでザウバーの深意を探るかの様に、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。すると、ザウバーは彼女の言葉へ応える様に頷き、自慢気な笑みを浮かべる。
「いいぜ。人には、武術を得意とする奴も居りゃあ魔術を得意とする奴も居る。魔術を得意とする奴の中でも、それぞれに得意な魔法系統が有るからな。担当を決めんのは、聖霊に会ってからでも遅くねえ」
ザウバーは、考えにある程度整理がついたのか、しっかりとした口調で声を発していた。
「改めて宜しくな」
ベネットはザウバーの前に右手を差し出す。ザウバーはそれへ応える様に、差し出されたベネットの手を強く握り締めた。
数拍の後、ベネットはそっとザウバーの手を離し、静かにダームの方へ向き直る。この時、ベネットの目線に気付いたダームは、右手を彼女の前へ差し出した。
「宜しくな、ダーム」
言いながら微笑を浮かべ、べネットはダームの手を優しく握る。彼女は、暫くの間を置いてから手を離すと、ザウバーの目を見つめて口を開いた。