片翼の天使
文字数 1,355文字
「と、いった流れで行動しようと思う。問題無いか?」
「うん、大丈夫。ブルーツァグの儀式がある日……つまり、明日なら教会学園に入ることが出来る」
ベネットの話を聞いたダームは、自慢気に話し始めた。
「だけど、色々と立ち回るには、ベネットさんの持つ紋章が必要。だから、僕達はベネットさんから離れちゃいけないし、護衛の振りをしていた方が無難なんだよね?」
話し終えた時、彼は目を輝かせながらベネットの顔を見つめた。
「そうだ。流石、熱心に聞いていただけはあるな」
そう言うと、ベネットは少年の目を見つめ返す。それから、彼女は目を細め、静かに息を吸い込んだ。
「行うべき作戦は決まった。そろそろ私は、明日に備えて休もうと思う」
そう伝えた後でベネットは立ち上がり、客室の一番奥に置かれたベッドへ向かっていった。彼女に倣う様にダームもベッドへ横になり、客室は静まり返る。
話し合いが終わってから数時間後、旅の疲れが溜まっていた為か、三人は深い眠りに落ちていた。
しかし、日付が変わった頃、窓から差し込む光を浴び、少年は眩しそうに目を開く。目覚めたばかりのダームが窓を見ると、不思議な光景がそこにはあった。
「あれは……天使?」
そう言葉を漏らすと、ダームは何度か目を擦って窓の外を見る。この時、窓の外には、金と銀の羽を背中に生やす何者かが、太く迫り出した木の枝に座っていた。
「ザウバー!」
信じ難い光景を目にした少年は、隣で寝ている仲間を起こす為、青年の体を激しく揺さぶった。
「なんだよ、まだ真っ暗じゃねえか」
一方、真夜中に起こされたザウバーと言えば、体をおこすことなく眉根を寄せた。そうしてから、青年はダームの方を振り返ること無く、煩わしそうに大きな欠伸をする。
「天使が……とにかく、窓の外を見てみてよ」
興奮した様子で言うと、少年はなんとかしてザウバーを窓の近くに連れて行った。
しかし、既に天使の姿は無く、深夜に起こされたザウバーは、わざとらしく息を吐き出した。
「何も居ないじゃねえか」
苛立った様子で言い放つと、ザウバーは少年の頭を軽く叩く。
「さっきは、確かに居たのに」
「大方、寝呆けてたんだろ。第一、本当に居たとして、どの辺りを飛んでたんだよ」
青年は、呆れた様子で深い溜息を吐いた。彼の目は殆ど閉じられており、そこには直ぐにでも寝直したい気持ちが表れている。
「飛んでいたんじゃなくて……って、あれ?」
そう言いながら、少年は羽を持つ者が座っていた大きな枝を探した。ところが、幾ら目を凝らしても、大きな枝どころか樹木すら見当たらない。
「おかしいな、確かに見たのに」
ダームは、それでも納得がいかない様子で、窓から身を乗り出して周囲を見回した。
「気が済んだか? 俺は寝直すからな」
苛立った様子で言い放つと、ザウバーは少年の襟首を掴んで無理矢理部屋へ引き戻す。その後、彼は勢い良く窓を閉めると、直ぐにベッドへ潜り込んだ。
それを見たダームは肩を落とし、残念そうに大きな溜め息を吐く。少年は、もう一度窓の外を見るが変化はなく、諦めた様子でベッドの上に横になった。