街の守り人
文字数 1,935文字
ところが、彼の声を掻き消すかの様に、彼らの進行方向から、再び爆発する様な音が響いた。そのけたたましい音に気付いたザウバーは、咄嗟に音源の方へ顔を向け、何が起きたのかを確認しようとした。
「ピューフィリオ!」
二人の前方から男の声が聞こえたかと思うと、辺り一面は白い光に包まれていく。この為、そこに居合わせた二人は強い光に視界を奪われ、その場に立ち竦んでしまった。ダームとザウバーの前方には一人の男性が居り、彼は二人の存在に気付くなり口を開いた。
「大丈夫ですか?」
彼は申し訳なさそうに目を細め、慌てて二人の元へ駆け寄っていく。
「申し訳御座いません。呪文を唱える事に集中していて、人が居るか否かの確認を怠ってしまいました」
男性は両腕を真っ直ぐ下方に伸ばし、そのまま深々と頭を下げる。男性の言葉を聞いたザウバーは眉間に皺を寄せ、霞む目を擦りながら声のした方へ目線を向ける。
すると、ザウバーの瞳には、彼より体格の良い男性の姿が映し出された。男性の額にはうっすらと汗が浮かび、綺麗に切り揃えられた前髪が張り付いていた。また、その暗褐色の瞳には疲れが浮かんでおり、覇気の無い眼差しからは心情が読み取りにくい。
「俺達は大丈夫だ。あんたこそ、怪我は無いのか?」
「御心配には及びません。私は警備兵の総司令です。先程襲ってきた程度の魔物、赤子の手を捻る様なものです」
総司令を名乗る人物は、苦笑する。
「ただ……最近は魔物の出現が増加しており、相対的に兵の数が不足しております」
男性は空を仰ぐと、目を瞑り大きな溜め息を吐く。
「クルークの洞窟から、魔物が出現しているという噂を耳にしては」
「だったら、さっさと洞窟ごと封印すりゃいいじゃねえか」
言葉を遮る様に言い放つと、ザウバーは男性の顔を怪訝そうに見上げる。一方、ザウバーの指摘を受けた男性は、申し訳なさそうに首を横に振った。
「無論、私も洞窟自体を封印しようと考えました。しかし、クルークの洞窟からは貴重な資源が採れる為、不確かな情報で封印する訳にはいきません」
そこまで説明すると、男性は難しそうな表情を浮かべ苦笑する。彼は細く長い息を吐き出すと、ザウバーの顔を静かに見つめた。
「その真偽を確かめようにも、私達は増えた魔物から街を守るのに手一杯。人員を増やさない限り、調査部隊を編成する事が難しいのです」
そんな中、二人の会話を聞いていたダームは、男性の顔を見あげて首を傾げた。
「それなら、僕達がクルークの洞窟に行って調査してくるよ」
ダームの提案を聞いた男性は、何と返して良いのか判らず言葉を失う。
「だって、困っている人を放ってはおけないよ」
そう言うと、少年はザウバーの方へ向き直り、同意を得ようと笑顔を浮かべる。
「だな」
問い掛けられたザウバーは、意見を受け入れる様に歯を見せて笑った。男性は暫くの間顎に手を当てて考えた後、二人の顔を見る。
「分かりました。ただし、洞窟を調査して頂くに当たって、条件が御座います」
「条件?」
「此処からですと、クルークの洞窟は多少離れた場所にあります。その上、洞窟内は入り組んでおり、慣れない方には危険です」
そこまで伝えると、男性は目を細め含み笑いを浮かべた。
「ですから、先ずは装備や食料等を揃えて下さい。勿論、代金はこちらでお支払い致します」
「それだけ? 条件が有るって言うから、剣や魔法の腕前を試されるのかと思ったよ」
「各々の腕前は、洞窟へ行く道中で確認させて頂きます。実際に魔物との戦闘を拝見する方が、手っ取り早いですから」
男性は少年の疑問に対して説明を加え、柔らかな笑みを浮かべた。
「行く道中って事は、一緒にクルークの洞窟へ行くって事?」
「はい。いくら人手が足り無いとはいっても、見ず知らずの方々だけに行かせる訳にはいきません。それに、封印魔法は私の十八番ですから」
そう言うと、男性はダームの目を優しく見つめる。
「じゃあ決まりだな。俺は、ザウバー・ゲラードハイト。自然魔法を得意としている」
ザウバーは男性の目を見つめると、男性の前へ右手を差しだす。
「僕は、ダーム・ヴァクストゥーム。魔法は使えないけど、剣での戦いなら任せて!」
簡単な自己紹介を終えると、ダームは子供らしい無邪気な笑顔を浮かべた。
「私は、アーク・シタルカーと申します。既に申し上げたとは思いますが、警備兵の総司令を勤めております」
アークはザウバーの目を見つめ返し、差し出された彼の手を強く握り返す。彼は軽く頭を傾けると、微笑みながらザウバーの手を離した。