仲間との距離
文字数 1,051文字
「お帰りなさい!」
明るい声で言ってから、ダームは不安げにベネットの周辺を見回した。
「ザウバーは一緒じゃないの?」
「資料を捜し始めてからは見ていないのだ。私もザウバーのことは気になっていたが、閉館する前に図書館から出なければならなかった」
ベネットは顔を伏せ、不安そうな表情を浮かべる。
「そっか。閉館まで図書館に居て、学生かどうか調べられたらまずいもんね」
ダームは、言いながら腕を組み、何度か小刻みに頷いた。
「もし調べられたって、ザウバーなら平気だよ。ザウバーは、あれでいて転移魔法も使えるし。それに、ザウバーの生命力は、魔物並に強」
ダームは、べネットを安心させようと言葉を加えた。ところが、その瞬間ダームの後頭部には鈍い痛みが走り、彼は頭を押さえて座り込んでしまう。
「誰の生命力が、魔物並だって?」
驚いたダームが後ろを振り返ると、不機嫌そうに彼を見下ろすザウバーの姿が在った。
「ザウバーが戻らないから!」
突然の出来事に困惑したダームは、問い掛けの答にはならない言葉を発する。
「は? ちゃんと戻ったじゃねえか」
ザウバーは、そう返すと口元をゆがめた。
「なんにせよ、全員揃ったのだ。まずは宿を取り、そこで話の続きをしよう。学生が沢山通る場所に留り続けるのは、賢い考えでは無いだろう」
「暗くなってきたみてえだし、その方が得策だな」
ベネットの提案を聞いたザウバーは、意見へ賛同する様に頷いた。
「ベネットさんが、そう言うなら」
一方、ダームはザウバーに対して言い足りない事でも有ったのか、口ごもりながら返答をした。
「では、決まりだな。この街の宿は、大学の近くと街の入口付近に有った筈だ」
ベネットは宿の在る場所を呈示し、二人に目配せをする。彼女は、そうする事によって、どちらの宿に泊まるかを彼らに尋ねた。
「大学の近くに在るなら、そこでいいんじゃねえか? 宿泊代にしろ、街の入口近くの方が高いだろうし」
ベネットの目線の意味に気付いたザウバーは、直ぐに大学付近の宿を取る事を提案した。
「そうだね。僕は宿泊代の事とか良く解らないけど、移動してきて疲れたし、近い所の宿が良いかな」
「分かった。近い方が直ぐに休む事が出来るし、良いだろう」
そう言うと、ベネットは直ぐに踵を返して歩き始める。