静かなる命の守護者

文字数 1,691文字

 「元々、学園の敷地には、私の力の象徴たる大樹が生えておりました。しかし、愚かなる人間の手により、大樹は毒薬で枯らされてしまったのです。それからというもの、私は聖霊としての力を十分に発揮出来ずにいました」
 ファンゼは悲しそうに息を吐き出し、ベネットの瞳を見つめる。

「ですが、それも今日迄のこと。貴女の力を借りたことにより、大樹を復活させることが出来そうです」
 更なる説明を加えると、聖霊はべネットを見つめたまま微笑んだ。
 
「では、庭師として潜入したのは、毒薬がどの程度残留しているか、確認する目的も有ったということですか?」
「否定は致しません。ですが、肯定も致しません。ただ、リヒトの力は、毒を浄化することも可能です。人間が作り出した物だけで無く、魔物が生み出す強い毒であろうと」
 ファンゼは、呟く様に答えを告げると、気怠そうにベネットから目を逸らす。

「つい話し込んでしまいましたが、まだ体調が万全で無いでしょう。御仲間が到着するまで、ゆっくり休んで下さい」
 ファンゼはベネットの両肩を掴み、半ば力ずくでベッドに寝かせた。押し倒されたベネットと言えば、驚いた様子で聖霊の目を見つめる。
 
「御質問でしたら、御仲間が到着されてから纏めてお聞きします」
 ファンゼが話し終えた瞬間、ベッドの周囲からは青々とした蔓草が数え切れない程に生じる。それにより、ベネットの視界は遮られた。そして、置かれた状況を理解したベネットは、一度大きく溜め息を吐くと、諦めた様子で目を瞑る。
 
 数時間後、椅子に座って寛いでいたファンゼは、二人の人間が到着したことに気付く。

「漸く、到着出来た様ですね」
 彼は、無表情のまま話し出した。一方、傷付きながらも到着した少年は、聖霊の力を取り戻したファンゼの姿を見るなり、驚いた様子で目を見開く。
 
「あれ? あの人、声は同じだけど」
「ああ。それに、今迄とは比べものにならねえ位に魔力も高まっている」
 そこまで話すと、ザウバーは警戒をしながらファンゼに近付いていった。
 
「此処まで辿り着くことが出来ただけあって、魔力には敏感な様ですね」
 ファンゼは、表情を変える事無く言うと立ち上がり、静かに青年の方へ歩み寄る。

「彼女の仲間ならば、力の悪用はしないでしょう。此処まで辿り着いたことを称え、貴方に力を与えます」
 そう話すと、ファンゼは冷笑を浮かべてザウバーの目を見つめた。

 対するザウバーは、困惑しながらも防御姿勢をとる。その一方、ファンゼは彼の様子を気に留める事無く、青年の胸元に手を翳すと静かに目を瞑った。
 
「他者を守る気持ちの強き者に、我が力を分け与え賜う」
 ファンゼは、まるで語り掛ける様に言葉を紡いでいく。すると、青年の体は緑色の光に包まれ、ザウバーは驚きの為か体を硬直させた。

「ええと……これって、どういう事?」
 一連の光景を見ていたダームは、驚いた様子で言葉を漏らす。少年の言葉を聞いたファンゼはそれに応えず、代わりにザウバーの目をしっかりと見据えた。
 
「怯えることはない。我が名はファンゼ、静かなる命の守護者です」
「……って事は、もしかして、ザウバーは聖霊の力を手に入れたの?」
 固まったたままの青年へ取って代わる様に、ダームはファンゼに質問を投げかけた。

「そういう事です」
 そう返すと、ファンゼは少年の顔を優しく見つめた。
 
「立ち話もなんですから、取り敢えず座って下さい」
 ファンゼは、言いながら部屋の中に有る椅子へ目線を送る。しかし、緊張の為か二人に動く様子は無く、ただ時間だけが過ぎていった。
 この為、ファンゼは大きく息を吐き出すと、ゆっくり首を横に振る。

「私はベネットを呼んで来ます。御二方は座って待っていて下さい」
 それだけ伝えると、ファンゼはダームとザウバーの眼前から昇華する様に消え去った。
 
「とりあえず、良かったんじゃない?」
 ファンゼが消えた後、少年は少しの間を置いてから嬉しそうに話し出す。

「ああ、そうだな」
 一方、何が起きたのか分からないままのザウバーは、困惑した様子で返した。それから、彼はファンゼが示した椅子へ倒れ込む様に腰を下ろす。
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登場人物紹介

ダーム・ヴァクストゥーム

 

ファンタジー世界のせいで、理不尽に村を焼かれてなんだかんだで旅立つことになる少年。
山育ちだけにやたらと元気。
子供だからやたらと元気。
食べられる植物にやたらと詳しい野生児タイプ。

 

 HEIGHT::158cm

 WEIGHT:51kg

 HEIR COLOR::Brown

 EYE COLOR::Blue


ザウバー・ゲラードハイト

 
自称インテリ系魔術師の成年。
インテリ系が故に体力は無い。
その分、魔力は高い。
口は悪いが、悪い奴では無い。
割とブラコン。

 

 HEIGHT::186cm

 WEIGHT::63kg

 HEIR COLOR::Black

 EYE COLOR::Dark Brawn

アーク・シタルカー


ヘイデル警備兵の総司令。

その地位からか、教会関係者にも顔が広い。

魔法や剣術による戦闘能力に長け、回復術も使用する。

基本的に物腰は柔らかく、年下にも敬語を使う。

常にヘイデルの安全を気に掛けており、その為なら自分を犠牲にする事さえ厭わない。


 HEIGHT:192cm

 WEIGHT:75kg

 HEIR COLOR:Brawn

 EYE COLOR:Dark brawn

ベネット

 

冷静沈着で、あまり感情を表に出さない女性。

光属性の攻撃魔法や回復術を使いこなしている。

OTOという組織に属しており、教会の力が強い街では、一目置かれる存在。

 


 HEIGHT:167cm

 WEIGHT:48kg

 HEIR COLOR:Black

 EYE COLOR:Brawn


モーリー

 


 HEIGHT:157cm

 WEIGHT:42kg

 HEIR COLOR:Dark brown

 EYE COLOR:Black

 

聖霊の名を語るリューンによって、呪縛を受けていた女性。

バームクローネ家の長女。



リン・バームクローネ
 

 HEIGHT:163cm
 WEIGHT:48kg
 HEIR COLOR:Darkbrown
 EYE COLOR:Black
 
バームクローネ家の長男。
キーとの関係は、双子の兄。

キー・バームクローネ
 
 HEIGHT:161cm
 WEIGHT:47kg
 HEIR COLOR:Darkbrown
 EYE COLOR:Black
 
バームクローネ家の次男。
キーとの関係は、双子の弟。

リューン

 

 HEIGHT:182cm

 WEIGHT:65kg

 HEIR COLOR:Green

 EYE COLOR:Green

 

聖霊の名を語ってバームクローネ兄弟を騙し、女性等を貢がせていた魔族。
再生力は恐ろしいが攻撃力は余り無い。

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