再生する魔族
文字数 1,995文字
敵が消え去って安心したのか、隠れて追ってきていたダームが姿を現す。しかし、安心したのも束の間、粉々に砕け散った筈のリューンがその形を取り戻し、ダームの方へ向かってくる。
「シュッツェ!」
少年を助ける為、ザウバーは咄嗟に防御魔法を唱えた。すると、少年の周りに目には見えない盾が生じ、リューンは後方に弾き飛ばされる。
「シェルファング!」
ザウバーの助けを無駄にするまいと、べネットは間髪を入れずに檻を生じさせる呪文を唱えた。緊迫した空気が辺りを支配する中、ザウバーはダームとベネットの居る方に向かう。
「大丈夫か?」
「僕なら大丈夫だよ。ザウバーのお陰で、攻撃されなかったし」
ダームはザウバーを見上げ、嬉しそうに微笑んだ。
「私からも礼を言う」
ベネットは、少年へ続く様に言うと頭を下げる。
「こんな檻、直ぐに破壊してくれるわ!」
そう言い放つと、リューンは掌を牙の檻へ向けた。
「魔力を集中出来ないだと?」
困惑した様子で呟くと、リューンは静かに腕を下ろす。
「当然だ。その檻は、獣聖霊たるカニファ様の力に依るもの。聖霊以上の魔力を持つ者で無くば、手も足も出ない。特に、カニファ様の力と拮抗する術を使用する者はな」
そう言い放つと、ベネットは檻の中に居るリューンを見据えた。
「だが、我を閉じ込めたところで何が出来る? 体を砕かれても、直ぐに回復出来るこの我を」
ベネットが何か言おうと口を開いた時、甲高い声を上げながらフォックが駆け寄って来た。
「モーリーさんが居るかどうか分からないけど、怪しい小屋を見付けたよ」
それまで走り回っていたフォックは、息を切らせながら要件を伝えた。そして、彼は疲れ切った様子で長く息を吐くと、その場に寝転んでしまう。
その様子を見たベネットは、フォックの体を優しく抱き上げ目を瞑る。すると、フォックの体は光に包まれ、荒くなっていた呼吸は次第に落ち着いていった。
「大丈夫か?」
ベネットは、細く目を開いてフォックを見ると、心配そうに話し掛けた。
「うん。こーやって、ベネットが抱っこしてくれてるなら大丈夫」
フォックは目を瞑り、その小さな頭をベネットの胸に押し付ける。
「人間共! 我を無視するとは、いい度胸だな!」
一方、リューンは苛立った様子で叫び声をあげ、力任せに檻を蹴り上げた。すると、檻に触れた箇所から激しい電流が流れ込み、リューンの体は弾かれる様に地面へ叩き付けられる。
「この檻には、術者が離れてもなお、容易に脱出出来ぬ力が働いている」
その光景を横目で見たベネットは、低い声でリューンへ告げた。
「大した女だな。人間であるのが勿体無い程だ」
「人間でなく、何になれというのか」
ベネットは溜め息交じりに呟くと、ダームとザウバーの顔を交互に見た。
「フォックが怪しい小屋を見つけてくれた。リューンの件は後にして、ひとまずその小屋へ向かうとしよう」
そう伝えると、ベネットはフォックが示す方向に歩き始める。
その後、フォックは獣道を移動していき、蔓に覆われた小屋の前で立ち止まる。
「ここだよ、怪しい小屋」
フォックは後方を振り返ってベネットの顔を見上げると、慌てた様子で声を上げた。
「見つけてくれて、ありがとう。今日は色々やって疲れただろう? ルルを見付けたら、直ぐに休むといい」
ベネットはフォックの丸い瞳を見つめ、優しく微笑んだ。それに対しフォックは小さく頷き、茂みの方へ向かって走っていく。
「フォックが見付けた怪しい小屋だが、どうしたものか」
フォックが茂みに消えた後で、べネットはゆっくりと仲間の方に向きなおる。
「こんな人気の無い場所に、蔓で覆われた小屋が有るんだ。可能性としては高いだろ」
ベネットの言葉を聞いたザウバーは、荒っぽく頭を掻きながら言葉を発した。
「戸も蔓で塞がれているところを見るに、少なくとも人は住んでいないのだろうな」
再び小屋の状態を見てから、べネットは淡々と自らの意見を述べていった。
「だったら、勝手に入っても問題無いよな」
それだけ言うと、ザウバーは二人の返事を待たずに小屋へ向かって歩き出した。そして、彼は小屋の戸の前で立ち止まると、その掌を前方へ向ける。
「平生は淀みを掻き消す清らかな風達よ、ここに集いて我が眼前に在りし蔓を切り裂き賜え……シュトゥルム!」
ザウバーが呪文を言い放った時、小屋の周囲に目には写らぬ風の刃が現れた。その刃は小屋を傷付ける事無く、器用に蔓のみを切り刻んでいく。そして、その魔法を見たダームと言えば、驚いた様子で声をあげた。
「俺様の魔法にかかれば、この位朝飯前だっての」
驚きの声を聞いたザウバーは、自慢気に胸を張る。
「流石だな。では、早速小屋に入るとしよう」
「おう。手早く済ませちまおうぜ」
そう言うと、ザウバーは小屋の戸に手を掛けた。