力を取り戻した聖霊
文字数 1,346文字
聖霊が呟いた時、転移を終えたザウバー達が彼の前に現れる。
「御到着ですか。貴男も中々やる様ですね」
ファンゼは、青年の方を見ることすらなく、気怠るそうに言葉を発した。
「何だと!」
ザウバーは、感情に任せて叫び声をあげた。すると、聞き慣れた声に反応したのか、ベネットが体を動かし、苦しそうに声を漏らす。
それから程無くして、ベネットの体を中心に、辺り一面を柔らかな光が包み込んでいった。
「良かった。無事に帰って来られた様ですね」
聖霊は安堵の表情を浮かべ、ベネットの髪を優しく撫でる。
「無事に帰ってきたって、どういう意味だ?」
「その意味を知りたいなら付いて来なさい」
聖霊は軽々とベネットの体を抱き上げ、又しても青年の前から消え去った。
「一体何がしてえんだよ!」
ザウバーは拳を握りしめ、苛立った様子で近くの木へ叩きつけた。
「落ち着いてよ。今、転移魔法を使えるザウバーが動揺してたら、捕まえられるものも捕まえられなくなっちゃうんだよ?」
ダームは、青年をたしなめる様に話し出す。少年の声を聞いたザウバーは唇を噛み、乱暴に頭を掻いた。
「そうだな。なんだかんだ言うのは、ベネットが無事に帰って来てからでも遅くない」
そう言って大きく頷くと、青年はベネットの居場所を探るべく、精神を集中させ始めた。
青年が困惑している間に、ベネットを抱き抱えた者は別の場所に転移を終えた。その場所は、四方を蔓草に囲まれており、それらが絡み合った様子は、まるで部屋を仕切る壁の様であった。
細く息を吐き出すと、聖霊は天蓋付きのベッドへベネットを寝かせる。そのベッドには、柔らかな若草が敷き詰められており、ベネットの体は段々と草々に包み込まれていった。
それから程無くして、ベネットが目を覚ました。
「此処は、我が居城です」
そう言うと、聖霊はベネットに小さなカップを手渡した。ベネットは、そのカップを両手で掴むと、不思議そうな表情でファンゼの顔を見つめる。
彼女の目線の先には、今までとは髪色や耳の形の異なる聖霊の姿が在った。その髪色は光を受けて輝く碧色になり、尖った耳はその髪を突き抜ける程に長くなっている。
「これは一体?」
ベネットは聖霊の顔を見つめ、小さく首を傾けた。
「それは、様々な薬草を煎じたものです。貴女は、私に協力をして倒れました。この位の事はさせて下さい」
質問に答えると、ファンゼは優しくベネットの右手を取る。
「それでは、やはり元の御力を」
ファンゼに触れられた瞬間、べネットは安心した様子で言葉を発した。
「質問は、体力が回復した後にお聞きします。先ずは体を休めて下さい」
ファンゼは、そう言うと優しく微笑んだ。対するベネットは軽く頷き、彼から手渡された薬を一気に飲み干す。薬を飲み終えたベネットと言えば、今迄に感じた事の無い不思議な感覚を覚え、思わず声を漏らした。
「力が漲って来たでしょう?」
聖霊はベッドの縁に座り、ベネットの目を優しく見つめる。
「貴女は、本当に凄い御方です。貴女のおかげで、悲願を達成することが出来そうですから」
そう言うと、聖霊はベネットの手を強く握りしめた。一方、彼の台詞を聞いたベネットは、不思議そうな表情を浮かべ首を傾ける。