ジーナス大学と潜入手段
文字数 1,881文字
大学の前に到着したダームは、背や首を伸ばし、懸命に建物を見回した。ザウバーは、大学の大きさに目を丸くし、呆けた表情を浮かべて口を開く。
「でけえな」
「恐らく、聖霊以外にも様々な研究をしている大学なのだろう」
「成る程な。研究対象が多い程、大学の規模もでかいって訳か」
ザウバーは腕を組み、彼女の考えに対して納得したように頷いた。
「正確な場所にしろ、目的地を決めた時点で調べておくべきものだがな」
ザウバーの言葉を聞いたベネットは、呆れた様子で溜め息を吐く。
「いいじゃねえか。結局は、辿り着けたんだ」
ザウバーは、自らの不手際を誤魔化す様に、慌てて言葉を発した。この時、彼の声は裏返っており、言葉とは裏腹に動揺していることが明らかだった。
「別に、怒っている訳ではない。しかし、資料を見せて頂く手立て位は、考えてあるのだろう?」
それだけ言うと、ベネットはザウバーの目を見つめる。
「ダーム、お前は残れ」
「何で? 僕だって行きたいよ」
突き放す様な言葉を聞いたダームは、苛立った様子で声をあげた。
「なんせこれだけデカい大学だ。大人なら、学生じゃない奴が混じっていたって、そうそうバレやしねえ」
ダームの問いを聞いたザウバーは、しっかりした話し方で答えを返していく。
「だが、ダームには無理だろうからな」
自らの考えを言い終えると、ザウバーは少年を小馬鹿にするように笑い始める。
「確かに、僕が大学に居たら、迷い込んだみたいだけど」
それだけ話すと、ダームは寂しそうに俯き頬を膨らませる。
「しかし、大学には入れるとして、資料を見せて頂けるものなのか?」
ベネットは、少年が落ち込んでいる事を気にも留めず、淡々とザウバーに質問をした。
「大学ってのは、学問を極めるのが目的の場所だからな。そう言う場所にゃ、専門書を集めた図書館が在るもんだ。だからこそ、大学図書館に居るのは、調べものが目的の奴ばかりだ。そんで殆どの利用者は、目的の資料以外には無関心だ。目立たないようにすりゃ、図書館内で読む分には何とかなるだろ」
「成る程な。目立つことをしなければ、学生かどうかを疑われずに蔵書を閲覧出来るという訳か」
ベネットは頷きながら軽く目を閉じる。
「学生のふりをするとなれば、服装もそれらしくせねばならないだろう」
べネットは、考えを窺う様に青年の目を真っ直ぐ見た。しかし、ザウバーには彼女の話した意味が判らず、言葉を詰まらせてしまう。
「少なくとも、道中で汚れてしまった今の服では、構内で目立ってしまうだろう」
そう説明を加えてから、ベネットは大学構内を見る。その構内では、綺麗な服を着た学生達が、それぞれに連れ立って歩いていた。
この時、ベネットの説明を理解したザウバーは、自分の着ている服装を見下した。
「それもそうだな。目立ったせいで不審に思われても面倒だ。一度ここを離れて、インテリっぽい服を買いに行くとするか」
そう返す彼の服には汚れや傷が多数あり、お世辞にも綺麗とは言えなかった。
「ザウバーが、インテリね」
「ちょい待て。こう見えても俺様は、ジーナス魔術大学を出てるんだぜ?」
ザウバーは、苦笑しながら少年へ言い返した。
「つまり、ザウバーは優れた魔術師なのだな」
「そういう事だ。ジーナス魔術大学で進級するにゃ、紙の試験で一つも漏らさず合格点を取らなきゃならねえ。それに、毎回変わる実践的試験も通過しなきゃならねえ。入学は出来たとしても、無事に卒業出来る奴は限られるって訳だ」
ダームの方に向き直り、青年は腰に手を当てて自慢気に胸を張る。彼の表情は輝いており、出身大学にかなりの自信を持っていることが窺えた。
「確か、卒業出来るのは三割弱。一度も留年せずに卒業出来るのは、一割に満たないと聞いたな」
ザウバーの話を聞いたベネットは、顎に手をあてがいながら言葉を発した。
「それに、入学した奴らの半分は、一年もしないで居なくなる。俺様みたいに、留年しねえで卒業出来る天才は、そうそう居ないって訳だ」
ザウバーは、そう言うとダームの背中を思い切り叩く。
「その割には、向こう見ずな行動が多いように思えるがな」
ベネットは、呟くように声を漏らすと、呆れた様子で溜め息を吐いた。
「あれだよ。ナントカと天才は紙一重、って言うやつ」
ザウバーに背中を叩かれたダームは、その仕返しのつもりか軽く笑いながら言葉を放った。
「酷い言われ様だな……まあ、いい。とにかく、服を売っている店を探そうぜ」
苦笑いを浮かべながら話すと、青年は二人の返事を待つことなく歩き始めた。