クルークの洞窟調査
文字数 1,676文字
「起きたか」
ザウバーは落ち着いた口調でダームへ話し掛け、面白そうに笑みを浮かべる。ダームは大きな欠伸をすると、上体を起こして腕を前方へ伸ばした。少年は声がした方へ顔を向けると、目を瞬かせ気怠そうに声を発する。
「お早うございます。良く眠れましたか?」
それまで横になっていたダームは、アークの声を聞くなり慌てた様子で立ち上がった。
「ごめんなさい。僕ったら、何時の間にか寝ちゃって」
「気にすんな。ガキと違って、一日や二日寝なくても平気だからな」
「そうですよ。私達は交代で寝ましたし、気になさらないで下さい」
アークはザウバーへ続く様に話すと、ダームへ優しく微笑みかけた。
「二人共……ありがとう」
ダームは、嬉しそうに笑うと目に涙を浮かべた。
「ダームも起きたことですし、そろそろ洞窟に入るとしましょうか」
アークは洞窟へ目線を移す。ダームは彼へ釣られる様に、冷たい闇が支配する洞窟の中を覗き込んだ。しかし、光源の無い洞窟内は暗く、入口付近を除きその内部を目で確認することは叶わない。
「入るって言っても、先は真っ暗で何も見えないよ?」
「それは、私の魔法で解決致します」
アークは、それだけ言うと余裕の笑みを浮かべる。そして、彼は掌を洞窟へ向けると、軽く目を瞑って精神を統一し始めた。すると、アークの足元からは柔らかな風が沸き立ち、彼の体は徐々に淡い光で包まれていく。
「暗き彼の地に清き光を齎し賜え……ルミナス!」
アークが呪文を唱え終えると、彼の掌からは光球が放たれ、洞窟の闇は一瞬にして払われた。
アークは、洞窟が明るくなったことを確認すると、二人の方を振り返り笑みを浮かべる。
「では、参りましょうか」
ダームとザウバーは肯定の返事をなし、三人は洞窟の中へ進んで行った。
洞窟中は狭い道が多く、時には一人が通るのでさえ、ままならない場所も有った。その上、急な坂になっている場所や足場の悪い場所も在った。この為、慣れない場所を歩き続けたダームの息はあがり、今にも倒れそうな程に足はふらついていた。ダームの苦しそうな様子を感じたアークは立ち止まり、後方を振り返る。
「大丈夫ですか? 洞窟の奥へ行く程、酸素は薄くなります。それに、魔物も増えている様です」
アークはダームの肩に手を置き、少年の瞳を真っ直ぐに見た。
「辛いのでしたら、すぐに引き返しますから」
アークは微かに目を細め、少年の身を案じる言葉をかけていく。しかし、当のアークも息が上がっており、体力を消耗している様であった。
「大丈夫だよ。それに……諦めたくない」
ダームは、精一杯元気な声でアークの言葉に応えていく。ダームの気持ちを察したアークは彼の肩から手を離し、柔らかな笑顔を浮かべた。
「最深部は、目と鼻の先です。そこで何が待ち構えて居るか判りません……ですから」
そこまで話すと、アークはゆっくり目を瞑り、胸の前で手を組んだ。
「聖なる力よ、我らに糧を与えたまえ……リバイバル!」
アークが詠唱を終えると、彼らの周囲は桃色の温かな光に包まれていく。そして、その光が消えた時、三人の傷は完全に癒えていた。
「凄い、一気に体が軽くなった!」
ダームはアークの顔を見上げ、嬉しそうに目を輝かせる。
「だな。一度にここまで回復させられる奴は、そうそう居やしねえ」
アークは恥ずかしそうに目を伏せ、照れ笑いを浮かべた。それから、アークは二人に目配せをすると、ゆっくり歩き始める。回復魔法を唱えた後も、アークは二人を先導しながら洞窟を歩き続けていた。彼らが進むにつれ、洞窟内の空気は冷えていき、一番小柄なダームは何度か盛大なくしゃみをする。
少し開けた場所へ差し掛かった時、アークは前方を見据え立ち止まる。彼の眼前には平坦な岩壁が広がっており、その壁は微かに黒い光を放っていた。アークはダームとザウバーの方を振り返ると、緊張した面持ちで口を開く。