○九九七年、五月一〇日(一五年前) 9

文字数 520文字

「あれは……」
 武が細い道を歩いていると目の前の交差点を左から右へ、ふらふらと歩く男がいた。
「星壱か……」
 星壱と思われる男は交差点の真ん中でいきなり倒れた。するとすぐに男が歩いてきた方角から車が現れた。男達が降りてきたと思ったら、男をトランクに投げ込んで走り去った。一瞬のことだった。車に乗っていた男たちは武には気がつかなかった。
「あれは『元舞会』の……」
 右の後部座席にいた男、武には見覚えがあった。あれは大輔の死体を持っていった時に見た男だ。会長の横で一人喚いていたように思う。幹部で恐らく若頭の地位にいる男だ。――確か名前は……。
「高崎」
 なぜ星壱を連れ去った。それに星壱のあのおかしな状態は。うすうすは感じていたが、恐らく星壱は薬をやっていたのだろう。鉄の掟を破った星壱を元子が追い出したに違いない。そしてなぜか『元舞会』に連れ去られた。
「さて、どうしたものか」
 武はもう『星龍会』とは関係のない人間だ。おまけに星壱は憎む理由こそあっても助けてやる義理はない。
「しかし」
 やはり放っておくことはできない。『星龍会』の幹部の誰かに連絡を取らなくてはならない。武は踵を返して歩き始めた。
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