武のつぶやき2

文字数 389文字

 とにかく緊張したことしか覚えていない。ガタガタと震えていた。銃弾の雨の中を走り回る方が余程楽だった。そんな俺を元子が優しく包み込んでくれた。“大丈夫。大丈夫”と肩を叩いてくれた。それを聞くとやはり不思議と落ち着いた。
 親父に“娘を頼む”と言われて、単純に嬉しかった。“これで家族になれた”星壱が言ってくれたように俺もそう思った。永かったが、やっとこの家の人間になれた。星壱も星次も本当の兄貴のように慕ってくれている。
 俺の人生で最も輝いた瞬間だった。すべての恨みを忘れてしまいそうなくらい幸せだった。この時の気持ちを忘れないようにしていれば、俺が分というものをわきまえてさえいれば、あんなことにはならなかったかもしれない。
 どこで自分の力を見誤ってしまったのだろう。
 俺にはそんな器は持ち合わせていなかったのに……。
 今となってはすべてが手遅れだった。
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