元子のつぶやき7

文字数 729文字

 美雪の語る過去は衝撃の内容だった。一言相談してくれればいつでも力になったのに。美雪はあたしとタケには絶対に迷惑を掛けたくなかったと言った。迷惑などではないのに……。戸籍を買った経緯も全部話してくれた。タケへの思いが一杯詰まっていることがよく解った。
 その後は思い出話に花を咲かせた。すると急に美雪の体調が悪くなった。大丈夫だという美雪を無理矢理総合病院に連れていった。病状を聞いた内科医は産婦人科に行くように指示してきた。言われるまま同じフロアの産婦人科に行った。診察を終えた医者は驚きの診断結果を口にした。
「ご懐妊されています。おめでとうございます。三週目入ったくらいでしょうか」
 堕胎すると言って聞かない美雪を説得するのに一時間を費やした。
 そして「部屋に送り届けて安静にしているように。明日また電話する」と言って部屋を出た。
 美雪は兄さんがどこへ連れて行かれたか知らなかった。さくらもそのことは何も言っていなかったようだ。
 梅婆ちゃんの所に寄って調べてもらうと、兄さんは若頭の個人事務所に連れ込まれたことが解った。星次がタバコ屋に来たので事情を説明した。星次が「明弘を貸してくれ」と言うので、すぐに明弘に連絡を取った。理由を聞いても星次は「秘密」と言って、はぐらかすばかりだった。
 この時のあたしは美雪が夜中に家を出て、さくらを探していたとは夢にも思わなかった。あたしの役に立とうとしたのだろう。もし家を出なければ兄さんに刺されることもなかった。でもその時は代わりにタケが死んでいただろう。
 何度考えても正解なんてありはしなかった。あたしのせいで美雪は死んだ。
 あたしに出来たのは小さな命を救うことだけだった。
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