武のつぶやき7

文字数 703文字

 今思えば、理亜の計算通りだったのだろう。あの日から俺は理亜を誘って飯を食いにいくようになった。
 理亜の不思議な魅力に俺は憑りつかれていた。何度目かの食事を経て、俺は理亜をホテルに誘った。理亜は黙って頷いた。
 これまでも一度として理亜から誘ってくることはなかった。俺は操られているかのように食事に誘い、ホテルに誘った。そして当たり前のように理亜は俺の愛人になった。
 決して話術が巧みなわけではない。しかし、理亜は男を操るポイントを見抜く天性の才能があるようだった。当時の俺は理亜に操られている意識なんてまるでなかった。自分の意思で誘い、自分の意思で抱いた。
 『星龍会』での地位も上がり、後継者になって天狗になっていたのかもしれない。女が寄ってくるのも当たり前だと思っていた。
 俺は何度も理亜を抱くうちに不思議に思った。俺をいとも簡単に落とした魅力がありながら、なぜキャストとしての成績はあんなにも悪いのか。俺の見る限り、三本の指に入るくらいの力はあるはずだった。
 しかし、俺の心配は杞憂だった。俺の愛人になって以降、理亜の営業成績は鰻登りに上がっていった。相変わらず笑顔はほとんど見られなかったが、それが逆に客の心を刺激したらしい。今思えば、意図的に成績を下げていたのではないだろうか。今となっては想像でしかない。
 店での成績が上がってくると、理亜は俺の前でだけは笑顔を見せるようになった。それは俺だけに見せる特別な顔。客の知らない理亜を知っている優越感、俺はどんどん理亜にのめり込んでいった。
 俺は元子を裏切り続けていた。しかし、その頃の俺はそんな意識は全くなかった。
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