オレのつぶやき2

文字数 771文字

  その日の『星龍会』邸宅では不思議なことが行われていた。人間がバタバタと動き回っていたり、急に静かになったと思ったら、白い着物の二人と斎主とやらが入ってきたり。
 白い着物の二人が酒を少しずつ三回に分けて呑んだ。酷く回りくどい呑み方だ。二人のうちの片方は知っている顔で、武という男だ。もう一人は綿帽子と呼ばれるもので顔を隠しているのでよく解らなかった。
 それにしてもよく解らない集まりだ。参加している者のほとんどは明らかに堅気の者ではない。この数年でそれくらいは解るようになった。しかしみんな嬉しそうだ。この会はとてもめでたいことなのだろう。
 その後も誓いの言葉とやらを述べたり、木の枝に紙がついたものを神殿に置いたり、二回頭を下げ、二回手を叩き、再び頭を下げる。
 どういう意味があったのか今になっても解らない。どうやら結婚式というものらしい。神殿やら斎主やらというのもそこにいた奴らがそう言っていたから知っただけだ。
 式が終わった後も人間たちは酒を呑んで騒いでいた。人間は酒が好きで好きで堪らないらしい。呑み過ぎると動けなくなることが分かっているのに呑むのを止めようとしない。動けないオレからすると羨ましい限りだ。まあそれはどうでもいいことだが。
 親父もかなり酔っぱらっていたようだ。酔いを醒ますためか、屋敷の外へ出てきた。肩を回したり首を回したり体操を軽くした後で、タバコ屋に入っていく。しばらくすると煙草をワンカートン持って出てきた。組員に買いに行かせればいいのに、中々謙虚な人だ。
 屋敷に戻った親父は嬉しそうな顔で煙草を組員に配っていった。武にも煙草を一箱渡して肩をバンッと叩いた。武も親父も笑顔で溢れていた。
 恐らく武にとっても『星龍会』にとっても、この時が幸せのピークだったのではないかと思う。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み