元子のつぶやき4

文字数 497文字

 襖の向こうで女性の声が聞こえてくる。梅婆さんが人を連れてきたので慌てて隠れてしまった。この子が理亜か……。
 自分の中のイメージと聞こえてくる声の雰囲気を重ね合わせた。やはり悪い子ではない。この子は純粋に武のことが好きだっただけだ。家庭を壊そうなんて考えていたわけではない。すべてはタケが悪いのだ。
 不思議なものだ。彼女を憎む気にはなれない。それどころか一方的に親しみを持っている。そんな自分に気がついて思わず苦虫を噛み潰した気持ちになった。夫を取られていたかもしれないのに何を考えているのか。
 でもあたしには確信があった。もし理亜が原因でタケがあたしと別れると言い出したら彼女はそれを止めるに違いない。何の根拠もない話だが、そう思えてならなかった。
 では彼女の目的は何だったのだろう。あたしもそれだけが疑問だった。愛人で満足していたのだろうか。そうかもしれない。
 あたしは間違いなく理亜に好感を持っていた。そこまで考えて自嘲の笑いをもらしてしまう。損な性格だ。素直に理亜を憎むことができればどれほど楽だろうか。
 でも憎まなくて良かった。今は確信をもってそう思える。
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