○九九七年、三月四日(一五年前)

文字数 656文字

 四十九日の法要も終わり、武が星次を公園に誘った。
「星次。よく来てくれたな」
「何度も言うなよ。息子なんだから当然だろ」
「そうだな。お前には謝らないとな」
「何を?」
「お前の望む俺たちには戻れていないからな」
 それは武と星壱の関係のことだろう。今日も二人は目を合わせようともしなかった。
「仕様がないよ。お互いに立場がある」
「すまんな。色々と考えてはいるんだが」
「そうやって考えてくれてるだけでも俺は嬉しいよ」
「ところでお前、今何をしているんだ」
「珍しい雑貨を売る商売をしている」
 武は目を大きく見開いた。恐らく驚いたのだろう。武は星次が定職に就いているとは思っていなかったようだ。
「すごいな」
「対したことないよ。スタッフに給料払うだけで精一杯だ」
「それでも立派なもんだ。そうか星次が社長様か」
「まあね」
 星次は兄のように慕っている武に誉められて素直に嬉しかった。
「そういえば、後は武兄が継ぐのか?」
「ああ。それが親父の意志だったからな」
「とりあえず、おめでとうと言っておくよ」
「ありがとう。……ただな」
「ん?」
 武の表情が突然曇ったので星次は不思議に思った。何かトラブルでもあるのだろうか。と考えて星次はすぐに苦笑いした。トラブルは星壱のこと以外にはあり得ないからだ。
「壱兄がまだ認めてないのか?」
「それはもちろんなんだが……」
「じゃあなんだよ」
「いや、何でもない……」
 星次は漠然と不安を覚えた。
 
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