○九八五年、七月七日(二七年前)

文字数 917文字

 その日、『星龍会』邸宅では盛大な催しが行われていた。武と元子の結婚式だ。
 二階の大広間には神殿が築かれて、組員がバタバタと動き回っている。
 しばらくすると静かになって、紋付袴の武と白無垢の元子、それに斎主(いわいのうし)が入ってきた。そして全員が揃って礼をする。
 武と元子が酒を少しずつ三回に分けて呑んでいる。三三九度だ。武の表情が引き攣っている。恐らくかなり緊張しているのだろう。元子は綿帽子で顔を隠しているので表情までは解らない。
 その後、武は誓いの言葉を述べ、神前に玉串を捧げた。そして二礼二拍手一礼。指輪の交換が行われ、全員で杯の神酒を飲み干した。斎主が一拝、それに合わせて全員が拝礼し、そして再び全員が拝礼。斎主の祝いの挨拶があって、式は滞りなく終わった。
 その後は一階に場所を移して披露宴が行われた。式の時とは打って変わって全員の表情は砕けたものになっていた。武も嬉しそうに微笑んでいる。まだ若干の緊張が残っているようだが、式が終わってほっとしたのだろう。武の横にはぴたりと元子が寄り添っていた。式も終わり綿帽子を捲って顔を見せている。優しい微笑みがそこにあった。
 周りの組員が“お嬢”“お嬢”と口々に声をかけている。
 すると、親父と黒いスーツを着た若者が武に近づいてきた。親父は足元が覚束ない。かなり酒が入っているようだ。
「武、お前は儂の自慢の息子だ。元子を、娘を頼んだぞ」
「親父……。元子を必ず幸せにします」
 親父は武の頭を豪快に撫でた。親父の隣にいる黒いスーツの男もその光景に苦笑いを浮かべている。
「親父、兄貴も二八だぞ。いつまで子供扱いしてんだよ」
「ガキはいつまで経ってもガキだ。お前もだ、星壱」
 黒スーツの男――星壱――は溜息を吐いて、武と元子に目線を向けた。
「兄貴、元子。おめでとう」
 武と元子はお互いに見つめ合い、頷いた。
「やっと兄貴と本当の家族になれたな」
 二人は固く握手を交わした。
 この日、武は『星龍会』の№2に上り詰めた。トップは組員から信頼の厚いカリスマで、その下の土台も固まった。『星龍会』は順風満帆のように見えた。
 
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