オレのつぶやき3

文字数 615文字

 危なかった。武が突然こちらを見た。オレは慌てて目線を公園の方に逸らした。間一髪で間に合い、武はオレには気が付かなかった。しかしそのせいで武が引金を引くその瞬間を捉えることはできなかった。
 この頃オレはタバコ屋の角から『星龍会』ばかりを見ていた。それがオレを取り付けた者の希望だったからだ。最初は義務だったが、次第に興味を持つようになった。『星龍会』にと言うよりも、武という男に、である。
 結婚前に頭を下げ続けていた武から、今の姿は想像できない。今では老いた親父に変わって組を動かしている。そんな逞しい男になっていた。
 しかし、代わりに失ったものもあるようだ。星壱は武から距離を取るようになり、自分に従う者たちを集め始めた。今はまだ親父という存在が鎹(かすがい)になっているので問題にはなっていないが、親父はこの年で七三歳。先が短いことを誰もが覚悟していた。
 親父が死んだ瞬間『星龍会』は分裂する。武にもそれは解っていた。
 オレは見ていることしかできない自分がもどかしくなった。
 武の人生はこれからも色々な生と死が交錯する。さらに一人の女性の存在によって運命を大きく動かされることになる。それはまだ一〇年の時を必要としていたが、最初の出会いは約三年後。
 その三年の間にタバコ屋の南の店は、駄菓子屋から酒屋に、酒屋からコンビニに変わった。
 その辺りから親父がしばしば胸の痛みを訴えるようになった。
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