元子のつぶやき6

文字数 566文字

 美雪を施設に預けて三ヶ月後、あたしは彼女に会いに行った。色々と忙しく、三ヶ月も経ってしまった。しかし、彼女はいなかった。ちょうど一週間前に逃げ出したのだと、園長は説明した。――何かおかしい。
 あたしはそう直感した。
 園長の態度はどこかおどおどしていて、何かを隠しているように見える。凄んで脅してみると、すぐに白状した。
 美雪が逃げ出す前に、彼女の祖母が訪ねてきた。祖母は息子が行方不明になっていることを知って美雪に事情を聞きに来たのだという。興奮した祖母は美雪の肩を掴んで怒鳴ったという。
「この間家に来たガラの悪い男が息子に何かしたんじゃないの!あなた何か知ってるんでしょ!あなたのせいで息子はいなくなったのよ!」
 その時は園長が祖母を窘めて渋々帰っていったが、それから毎日のように祖母は施設を訪れるようになったと園長は説明した。
 ガラの悪い男とは恐らくタケのことだろう。その時は“私には息子も孫はいない”と言ったくせに身勝手なことだ。
 美雪は祖母を恐れて逃げたのではない。タケを護ろうとして祖母から逃げた。自分がここにいるから祖母は来る。自分がいなくなれば、タケと繋がるものは何もなくなる。祖母は諦めるしかなくなる。美雪は子供ながらにそう考えたのではないだろうか。
 あたしはそう確信している。
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