武のつぶやき10

文字数 809文字

 星次はどこで手に入れてきたのか、高崎の個人事務所の見取り図を机の上に広げた。そして説明を始めた。
 この事務所として使われている一軒家は三階建てで、ワンフロアの面積が九百㎡。部屋数は二○。普段は住居としては使われていないので誰も常駐していない。今は星壱が監禁されているはずなので見張りはいるだろうが、今の星壱にそんな大人数の見張りは付けないだろうという星次の予想だ。
 元々人を監禁することを考えて設計されているわけではないので、部屋の外から鍵を掛けられる部屋がないという。
「じゃあ、どの部屋に閉じこめられているかは解らないということか……。虱潰しに探すしかないな」
「いや。それは危険だ。あの家に何人いるか解らない状況で闇雲に動くのはまずい」
「じゃあどうするんだよ」
「一部屋だけ外から鍵をかけられる部屋がある」
「お前さっきないって言ったじゃないか」
「通常の状態ならないと言ったんだ。ここ見て」
 星次は二階の一際大きな部屋を指さした。
「恐らくここはパーティ用のホールだと思う。出入口は一つ。そしてこの部屋の扉は観音開きの大扉だ」
「それで」
「解んない?こういう部屋の扉の取っ手ってさ、こんな形してるだろ」
 そう言って星次は形をジェスチャーで示した。それはホッチキスの芯のような、カタカナの『コ』のような形だった。
「ああ、確かにそんな取っ手だな」
「これならオートバイのU字形の鍵で二つの取っ手を止められるだろ」
 なるほどな。確かにこの部屋なら外から鍵がかけられる。鍵のかかっていない部屋を見張るより、かかっている部屋を見張る方が楽に決まっている。この部屋に監禁されている確率が高そうだ。
 星次は俺がそう言うと嬉しそうに白い歯を見せた。星次は俺が褒めると決まってこんな顔をする。本当に頼もしくなったものだ。でもまさかあんな格好をさせられるとは思わなかった。
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