第11話 「庭園に営む」

文字数 7,764文字

「本当に大丈夫か、ナト」
「……ああ。ごめん、迷惑をかけた」

 ボロボロの服を最低限整えて、今更痛みだした傷跡を確認する。
 かかとや背中の刺し傷、拘束の跡や、衝撃波によるダメージが思った以上に酷い。
 癒えるまで時間がかかりそうだと、嘆息をつく。

 アメリオは今までになく深く眠り込んでしまった。
 グッタリとして、青い隈を作ってヨルカに寄りかかっている。

「痛いのでござります、ああ、痛いので……ござります」

 コリンは、ナトが拘束を受けていた籠のような檻に捕らえられ、天井から吊るされていた。
 折られた両手は無理やり檻の外で拘束され、足すらも固定されている始末。
 ナトがそちらへと寄る。
 コリンの血走った目が、それを捉える。

「お前にはいくつか聞きたいことがある」
「……なんでござりますかな」
「外の言葉が使えるということは、お前は外からやってきたんだな?」

 その問いにコリンは脂汗を垂らしながら、口角を上げた。

「……そうであって、そうではござりません」

 ナトはナイフを抜き放ち、脂肪が詰まった足に突き刺した。
 見ていたヨルカが、手元の赤い髪に(うず)めるように顔を背ける。

「ひぎ、ああああ!!」
死界(モルキア)に還りたいか」

 流れた血が、籠から溢れ落ちる。

「な、ナトさんっ!」
「殺さないから」
「そういう事ではなくて……」

 ヨルカから視線を外し、目の前の醜い脂肪の塊を見るナト。

「濁すな、次は首だ」
「ほ、本当でござります! わ、我々は外から来たのでござりますが、こ、ここ故郷はこの『ベルガーデン』にござります!!」

 ナトがナイフを引き抜く。
 涙と鼻水で再び顔を汚したコリンは、繰り返し大きく息を吐き出した。

「次の質問だ。アメリオとはどういった関係なんだ?」
「ひぃ、ひぃ……あ、あの方とは何の関係もございません……待って、待つのでござります!!」

 ナイフを振り上げたナトに、拘束された手足を暴れさせ、半狂乱になりながら許しを請う。

「ちょ、直接的な関係はござりませんでした! ただ、いずれ訪ねてきた時は保護せよと、そう言伝られていたのでござります!!」
「……それは誰に?」
「そ、それは――――う、うわっ!?」

 ガシャンと、音を立てて檻が揺れる。
 しかし――誰も、彼の入ったその籠には触れていない。

 それだけではなかった。
 大きな岩同士が擦り合うような音が近くで聞こえる。
 それと同時、建物全体が揺れ始める。

「お、おいナト、これは――」

 オーハンスが戸惑いながら、ナトに声をかけた。
 その時だった。
 広間の大きな窓から見える丘の大地に、大きな影が落ちる。
 夕暮れ時の室内が、より一層暗さを増した。

「な、なんですか……?」

 コツンと、地面に小石のようなものが落ちる。
 ナトが上を見上げるのと、それは同時だった。
 突然、天井の一部がごっそりと消えた。

 代わりに現れたのは、巨大な口だった。
 しかし、人間のそれでは無い。
 黒い体に割いたような大きな口内。
 薄暗い暗闇が落ちるそこには、臼歯がびっしりと数え切れないほど並んでいる。

「――高脚獣(トウダイクズシ)

 ナトが呟く。
 その巨大な口は何度も開閉して、その度に天井を崩しながらその体内へと取り込んでいった。
 それは、この世界を支配する、原生生物たる態度だった。

「や、やばいやばいやばい……ナト、早く乗れ!!」

 牧場の生物に(またが)ったオーハンスは、馬よりも幅のあるその背を叩く。
 ナトは慌ててヨルカに介抱されていたアメリオを抱きかかえると、
 ヨルカを前に乗せてから一緒に乗り込み、眠りこける彼女の体を支える。

「ま、待って! ワタクシは、ワタクシはどうすれば――」

 次々と崩れ落ちる瓦礫の中で、そんな声が三人の元に届いたが、四脚は躊躇う事無く走り出す。
 しばらくして、後ろからこの世を呪う絶叫が聞こえたが、誰も振り返る者はいなかった。

 アメリオの「魔法」により空いた大穴から、建物を出る。
 するとすぐに湿った空気が三人を迎えた。

 いくらか走ったところで、ナトは後ろを振り向いた。
 尖った針のような高い建物に、円形の黒い体を細長い四脚で支える怪物が取り付いていた。
 上から削るように、ゴリゴリと音を立てながら体を落としている。

「沼で見た怪物が、ここまでやってきたのか」

 思い出すのは、霧の中で見た、巨大な怪物の影。

「……あの時捕食してた白濁菌(カガミナギダラ)の巣と、あの建物を間違えたのかもしれないね」

 どう見てもサイズが違うけど、と付け足した。

 思えば、あの城の辺りは、光る灰が降ってはいなかった。
 いつかああなるのも、時間の問題だったのだろう。

 暫くその馬のような生物に揺られ、

「……ごめん」

 そんな、小さな呟き。
 ナトが握り込んだ右手を少しだけ緩めて、その中にある血の付いた一房の髪の毛を見る。
 前に乗るヨルカは何か声をかけようと口を開きかけるも、彼の体が震えているのを感じて、瞼を伏せた。





 彼らは宿に戻った。
 傷ついたナトと意識のないアメリオを見て、カウンターの女性はすぐにベッドを貸してくれた。
 そして手当をされる中、ナトは黙って握りしめていたそれを彼女に渡した。
 少女の母親は、涙を流してそれを握りしめて、しばらく中年女性の胸の中に顔を埋めて泣いていた。
 しばらくしてから、三人に何事かを話すと、泣きながら抱きしめた。

 それから、老人と髭の男性を筆頭に、村人たちが集まった。
 皆一様に俯いて、ナトたちをチラチラと見ては再び顔を下に向ける。

「奴らに情報を流した者や、引き渡した者が謝りたいそうでね。これはただの言い訳でしかないが……皆、逆らえなかったんだよ。……私も、すまなかった」

 村人たちは口々に謝罪と思われる言葉をナトの前で話しては、申し訳なさそうにしていた。
 彼らに一人ずつ頷いて見せる。そうして、怒りが無いことを伝えた。

 その後、ナトは何があったのかを老人の通訳で彼らに話した。
 あるものは手を叩いて喜び、あるものは顔を青くして口元に手を当て、あるものは怒りに膝を叩いた。

「……今回の責任は我々にもある。謝罪の気持ちも兼ねて、何かしたい。なんでもいいんだ、言ってくれないか」

 老人がナトにそう話す。
 ナトは少しの間考え、ふと、老人に問う。

「こちらの言葉で、教えていただきたい言葉があるんです」
「そんなことでいいのかい? ……そうか、言ってごらん」

 『イ・ルプトス・イルァ・ユル』。
 ナトは、その時に聞いた、彼女の最後の言葉を、なるべく真似て老人に伝えた。
 静かに目をつぶって聞き取り、口を開いた。

「アイ……ル・ペイド・タス……イルァ……ユル。この言葉の意味は……」

 老人は考え、そして答えを紡ぐ。

「『信じてる』」

 それを聞いて、ナトは自分の中でその言葉を反芻する。
 あの光景とその言葉を重ねて。
 何度も、確かめるように繰り返す。

 しばらく、ナトは何も言わなかった。
 そして突然席を立つと、「ありがとうございました」と呟き、三人を残して宿を出る。

 ヨルカがついていこうと席を立つも、オーハンスがそれを制止した。





 アメリオが起きたのは、それから丸一日が過ぎた頃だった。
 起きて次の瞬間には、近くに置かれていた花を食べようとして、慌てたヨルカに押さえられていたのを、オーハンスが発見したのだ。
 食堂で、三人は皿の盛られた机に着いていた。
 蒸した芋五人前をぺろりと平らげ、彼女は改めて周囲を見回す。

「……戻って来られたのね」
「ああ。ナトがやってくれた。それも、お前のおかげだ、マリー」
「そのために助けに行ったんじゃない。あの人達の死に物狂いの制止を振り切って」

 芋を頬張りながら、アメリオは宿の食堂の窓から夕暮れの空の下で働く村人たちを見る。

 あの晩、彼らは老人からナトの行方を聞いて、すぐに飛び出そうとした。
 それを、若者たちを中心に止められたのを、アメリオはナトを助ける道中ずっと文句を言っていたのだ。

「まあ、私達の事を心配してっていうのは、わかったからいいわ」
「俺はいつかお前が魔法をぶっ放すんじゃないかとヒヤヒヤしてたけどな」
「そこまで節操無しじゃないわ。……そういえば、ナトは?」

 騒動の中心にいた少年の姿が見当たらず、アメリオがオーハンスに問いかける。
 オーハンスは、その少女のような顔に悲しそうな表情を見せる。

「あいつなら、部屋に篭ってるよ。帰ってきたと思ったら、それからずっと」

 「ご飯は食べるんですけど」と、ヨルカが付け足した。
 アメリオは少し間を置いて、

「それなら大丈夫ね!」

 と納得したように首を振った。

「何が大丈夫なんだよ」
「絶対に大丈夫よ! 私が保証するわ!」

 答えになってない、と内心で突っ込みつつ、

「……本当にそうであってほしいな」

 と、オーハンスは切に願った。

 その夜、皆が寝静まった頃。アメリオは宿の中で自分の部屋を出て廊下を歩いていた。
 途中、ナトのいる部屋の前を通りすがり、立ち止まる。
 左右を軽く確認して、そっとノックをしようと手を伸ばした、その時。
 ドアが突然、部屋の方へ開く。

「あら」

 そこには、少し驚いた顔をしたナトが、ドアを引いた状態でアメリオを見下ろしていていた。






「何でこんな夜中に?」
「お腹が空いたのよ。外で何か食べようと思って。ナトは?」
「俺もだよ」

 暗い蒼に染まる夕暮れの道。
 時間にして大抵の人間は寝床に着く時刻だが、
 それでも出歩く人間はいて、ランプの明かりの元に集い何事かを語っている。

「ヘイヴァ!」

 二人で並んで歩いていると、突然声を掛けられた。
 村の若人が、明かりのついた店の前でナトとアメリオに向けて手招きしている。
 なんだろう。そう思い近寄ると、突然ナトは手を握られた。
 そして、彼は何事かを熱心に話したかと思うと、店の中へ引っ張られた。

 そこは、飲食店のようだった。
 落ち着いた雰囲気で、居座る者も静かに談笑していた。

「ヲラ! セリ・アナンダ!」

 若人はナトの手を引きながら、オーナーと(おぼ)しきカウンターの制服の男に、ナトと、その後ろを付いてきたアメリオを指して何かを伝えた。
 すると、オーナーが驚いたような顔をしながら二人に向き合い、それぞれ笑いながら手を握ると、店の奥へと消えていった。

「なんだろう」
「随分と人気者ね」

 若人はナトとアメリオに席の一つへと座ることを促し、軽く手を上げて店の端で話していたグループの輪に入っていった。
 手持ち無沙汰になった二人は、会話もなく、ソワソワと辺りを見回していた。

 しばらくすると、オーナーが自ら木のコップを二つ運んできた。
 中身は宿で飲んだ物と同じ香りがするお茶だった。

「スゲネヴァ」

 静かにそう言って、オーナーは再びカウンターへと戻っていった。
 会話は無く、どちらからともなく飲み物に手を付ける。

 改めて味わう炒った豆の香りを楽しみ、
 「そういえば」とナトが口を開く。

「あの時」
「あの時?」
「……アメリオが、俺を助けてくれた時だよ」

 死を覚悟した、あの瞬間。
 コリンのメイスから放たれた巨大な衝撃波が、ナトを飲み込もうとした時の事を思い出す。

「マリーは三回目の魔法を使えてたけど……」
「……そうね。そういえば、そうだわ。
 何故かはわからないけど、今までみたいに二回で意識が完全に無くなることは無くなったわ」

 「とんでもなく辛いけどね」と付け足して、再びカップに口を付けた。
 再び沈黙が訪れる。
 そうして互いに何口か含んだ後、ふと、ナトが口を開いた。

「俺さ」

 それだけ言って、ナトは再び口をつぐむ。
 アメリオは黙ってカップと口元から離した。

「前に……何年も前に、妹がいたんだ」

 静かに、空気に乗せるように、話し始める。

「白い髪の、照れる仕草が可愛い、女の子だよ。
 頭も良くて、教会に通っていい成績を取って、いつも俺に嬉しそうにそのことを話してくれたんだ」

 ナトは顔をアメリオに向けているが、その目はどこか、別の場所を見ている。

「でも……ある日、突然家から居なくなってしまったんだ。いつもどおりの朝だった。
 すぐ探して、手がかりを見つけた。
 それを追って、そしたらあいつ、住居区から外……城壁の向こう側に、建設が中止された水路を通って出ていってしまったらしいんだ」

 お茶を一口すする。
 アメリオは、その手が若干震えているのに気がついたが、何も見なかったように、再び視線をナトに向ける。

「慌てて追いかけた。知り合いの馬に乗って、幾らか進んだところでがむしゃらに野原を走って、それで、気が付いたら霧に飲み込まれていたんだ。
 後から知ったんだ。妹――シアと俺は、この『ベルガーデン』に迷い込んでしまったらしい。
 戻ろうと思っても、いつの間にか元の場所へ戻される霧には困ったけど、俺は奥へと進んだんだ」

 そこからしばらく間が相手、再びナトは口を開いた。

「突然、悲鳴が聞こえたんだ。
 聞き慣れた声だった。俺はそっちに走って、それで、見てしまった。
 ……心が、壊れるかと思ったよ。
 白くて長い毛を持った、体の大きな獣が、シアを殺していたんだ。
 その時に、俺もその獣に見られて――――そこからは、覚えてない」
「……あなたは、無事だったのね」
「気が付いたら、倒れていたんだ。シアの亡骸に、見つめられながら。
 あいつを抱えて、俺は来た道を戻った。
 そしたら、いつの間にか霧が晴れて、疲れて意識が朦朧としていたところを、どこかの商隊に助けてもらったんだ」

 俯きながら、ナトは続ける。

「それで、シアが居なくなってから、俺の家族は壊れていったんだ。
 まず、父さんが居なくなった。次に、母さんが過労で死んだ。
 残った俺は、ブルジョアの親戚に引き取られたんだ。
 それからの生活は、昼間は奴隷のように働いて、夜は屋敷で召使いさ。
 ……でも、そんなことはどうでもよかった」

 ナトの瞳が、強く輝く。

「夜の酒場で、必死になって情報を集めた。
 あの『霧』のことや、それにまつわることだよ。
 そしたら、俺と同じように、家族を無くした教会の重役が、こっそりと教えてくれたんだ。
 鐘の鳴る庭園のこと。――『魔王』のこと。
 それで、決めたんだ。時が来たら、またここへ戻る、って」

 「マリー」と、ナトは目の前の少女を呼ぶ。

「俺は、魔王を倒す。妹の、仇を取る。そのために、『ベルガーデン』に来た」






 翌朝。

「行くのかい」
「はい。お世話になりました」

 四人は村の出口に立っていた。
 それぞれ服装は新しくなり、特にナトは胸当てや脛当てなど、鉄製の軽い鎧装備を身に着けていた。

 オーハンスは手綱を握って居た。その先にいるのは、牧場で草を食(は)んでいた馬のような生物だった。
 多くの荷物がくくりつけられ、それでも背筋を伸ばして凛とした様子を崩そうとしないところは、『カイロス』とよく似ている。

 四人はそれぞれお揃いの鼠色のフード付きのマントを纏っていた。
 穴の空いていない新品だ。
 それらは全て、村人たちから自分たちを縛り付けていた『アンディア』の団員たちを追い払ったお礼にと、譲ってくれた物だった。

「もう行きます。ありがとうございました」
「……ああ。気をつけるんだよ」

 ナトたちが出口から遠ざかっていく。
 それを、村人たちと共に老人は見送る。

「……『魔王』と言った、あの少年の目。年端も行かない彼を、あんな風にするなんて。
 此処は、そんなに我々が憎いのか」

 老人は目を瞑った。

「信じているよ、少年」

 沼の方から、死んでいった者たちの嘆きのような重低音が、応えるように鼓膜を震わせた。






「それにしても、随分と多い荷物ね」

 光る灰が降る緩やかな下り坂を進みながら、アメリオがそう言った。

「安全な場所から出る前に、確認してようか」

 足を止め、馬のような生物から荷物を下ろす。
 そうして、袋のその中には。

「芋、芋、芋……ほとんど芋じゃねぇか」
「め、目が回りそうです……」

 どっしりと詰まった芋があった。
 微妙そうなヨルカとオーハンスに対して、アメリオは目を輝かせる。

「とんでもないわね。これで食べ物には困らないわ!」
「飽きた暁には拷問みたいなもんだけどな」

 ナトが芋を漁っていると、その中に、何かの柄が突き出ているのが見えた。
 不思議に思い、それを引き抜く。

 それは、あまり装飾のない簡素な鞘に収まった剣だった。
 鞘の長さから、ありふれた長さの剣であることがわかる。

 鍔は特徴的な物のない、横に伸びた一般的な物だ。
 柄は両手で待てる程度の長さで、続く握りには馴染みへの配慮か、柔らかい緩急が付いている。

 引き抜くと、銅色の剣身が姿を表した。鞘と擦れて美しい音色を奏でている。
 それなりの重量に、程よい厚みの剣身は先端で若干広がり、そして鋭く尖って菱形(ひしがた)となっている。
 刃は付いているが、どうやら突きでの性能が高そうだ。
 鉄製で無いのか光沢は薄いが、指先で叩くと、鋭く高い金属音が楽器のように優しく響いた。

 ナトがその剣を観察していると、一枚の手紙が足元に落ちた。
 拾い上げ、折り畳まれたそれを広げる。

『君の錆びついた剣の代わりになればと思って、これを贈ろうと思う。
 その剣は沼の底の、とても硬い粘土を加工して作ったらしい。
 金属の様な性質を持った、不思議な粘土だよ。頑丈で、よくしなるんだ。
 沼で聞こえる、叫びのような音の正体もその粘土と関係しているらしいけど、君たちにとって、そんなことはどうでもいいかな。
 銘は「響(ひびき)」だ。
 大事に使ってくれると嬉しい。
 庭園に営む、足の折れた老人より。
 庭園を征く、若き君たちへ』

 手紙を何度か読み返し、そして折りたたんで丁寧に懐にしまう。
 剣を撫でてそれから、それを腰に差した。

「なんだって?」
「……仲間が増えたよ」

 銅色の剣を見て、ナトはそう言った。
 「でも」と続ける。

「出会いがあれば――」

 錆びた剣を、おもむろに地面に突き立てる。
 小さく「ありがとう」と呟くと、その汚れた柄を指でなぞり、後ろ髪を断ち切るように踵を返した。

 ふと、村の方を見やる。
 夕暮れの空に、生活の狼煙が広がっていた。
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