第49話 「弔いの炎」
文字数 4,278文字
ナトは辛うじて意識を保っていた。
しかし、実際のところ彼は重体だった。
体の節々は擦り切れた紐のようにボロボロで、目もどこを見ているのかわからず、何を問いかけても返事がない。
弱く、とてもか細い意識が、どうにか彼を繋ぎ止めているに過ぎなかった。
限界を超えた戦い。
脳からの分泌物により突き動かされていただけで、青い剣の反動が抜けきったわけではなかった。
本来なら、もう横になってゆっくり休んでほしいところであった。少なくとも、ヨルカはそう思った。
しかし。
彼は、未だに片膝を立てていた。
何かに備えるように。
「ナトさん、もう、ゆっくり休んで……」
ヨルカがそう言っても、聞こえていないのか、震える体を同じように震える足で支え、どこかを虚ろに睨んでいる。
その脇では、アメリオとオーハンスが男の死体の側でしゃがみ込んでいた。
「とんでもないわね……ねぇ、どうするの、これ」
「どうするって言ったってな、俺達じゃどうしようもないだろ」
死体の処理について話し合う二人。
オーハンスは怪我をした足をかばうように、マイクに寄り添いながら話していた。
グリーゼについては、既に三人の中で結論が出ていた。
というのも、
「ぁ……が……」
失った顔から上――そこが、再生を始めていた。
初めて見た時は、三人共言葉を失った。
首を失っても再生するその力。
特にアメリオとオーハンスは、彼女の人を超えた部分をはっきりと目にしたことが無かったため、目に見えて動揺していた。
本当に息を吹き返すかもわからないが、もしも再生が終えれば、その時に話を聞こう。
というより、直視するのも気が引ける光景だった。
今はそっとしておこう。三人はそう結論づけた。
実際は議題を先延ばししただけに過ぎないのだが。
「とりあえず、ナトとグリーゼを安全な場所まで運びましょ。それから考えればいいわ」
「そう、ですね……ナトさん、掴まってください」
ナトの腕を方に回し、ヨルカ立ち上がろうとした。
しかし、ナトはそれを拒否するかのように、動かない。
「ナトさん?」
彼は、やはり黙ってただ一点のみを見つめていた。
しかし、よく見ると口がモソモソと動き、何かを伝えようとしている。
ヨルカは耳を傾け、その言葉を聞き取ろうとした。
「に、げ……なんです?」
その時だった。
何か、異音が聞こえた。
倒れた木の方からだ。
倒れた大木が動いていた。
その下から現れたのは、下半身を潰された大男だった。
「そんなっ!!」
「っ!」
悲鳴をあげるヨルカと右手を構えるアメリオ。
彼女たち二人にオーハンスは制止をかけた。
「待て、あいつはもう動けない筈だ」
「で、でも……」
「それも、そうね」
「アメリオさんっ!」
オーハンスの言葉を聞いて、腕を下ろすアメリオ。
心配そうに上目遣いで二人を見るヨルカを置いて、オーハンスは男に近づいた。
「聞きたいことがある」
「なん、だい……」
地面を這う生気の無い顔が、オーハンスの方をゆっくりと向いた。
「お前、何をしてそんな体になったんだ。まさか、前からってことはないだろう」
「……とう、めいな……石」
「透明な、石?」
「馬車の……操者が、食べたのを、見て……」
なんだか要領を得ない回答だった。
「だ、けど……あれは、だめだ……君たちは、食べたら……」
「なんだ、お前、俺達のこと心配してるのか? 散々痛めつけたくせに」
「……少し……頼みが、あるん、だ……」
男の死んだ魚のような目がオーハンスを見つめ続ける。
「僕、たちを……火を点けて、燃やしてくれない、か……」
「は?」
「だい、じょうぶ……酒の貯まったこの腹なら……すぐ、燃える……」
あれだけ自分たちを殺そうとした男が、逆に殺してくれ?
どういう風の吹き回しか。
オーハンスは逡巡した。しかし答えは出ない。
「普通、助けてくれ、とかじゃないのか」
「ああ……そうだ、助けて……くれ……」
「ほら見たことか」
しかし、男は続ける。
「この世界から、開放、してくれ……」
そこまで言葉が続いて、オーハンスは余計に怪訝げに眉を潜めた。
「もう……たくさん、だ。仲間が、死ぬのも……死の恐怖に、怯えるのも……」
「じゃあ、なんで、俺たちを殺そうと……」
「なんでも、良かった。抗って、それで、死ねるなら……なんでも。だから……期待していたんだ、君たち、には……。
ただ、死にたかったんだ」
男は、もうまともに呼吸もできなくなった胸を懸命に上下させ、そして最後に一言付け足した。
「ねぇ、同志……そう、だろう?」
――そう言って、男はナトの方を見た。
「頭 ァァァ!! ああああ!! 熱い、熱いぃぃぃぃぃ!!」
拘束した隻眼の男の、そんな絶叫が聞こえてくる中、ヨルカとアメリオはいない。
彼女たち二人は、盗賊たちが住んでいた遺跡の探索をしていた。
オーハンスは一人、グリーゼと火を点けた時点で気を失っていたナトの看病、そして燃える盗賊たちを任されていた。
流石に女子にこれを見せるわけにはいかないという、彼なりの配慮がそこにあった。
「うげえええっ」
もっとも、男である彼でも耐えられたものではなかったが。
それもそうだ。健全な少年なら、大人四人に火をつけて殺すなんて、トラウマ体験も甚だしい。
それでも、死ぬ間際の最後の希望を叶え――そして看取るまでが、命の取り合い、そして弔いになるのだろうというオーハンスなりの思いがあった。
さて、なぜ二人が遺跡の中へと踏み入ったかというと、それは男が残した言葉によるものだった。
『遺跡の中には……宝物庫が、ある。それを……君たちに、譲るよ……』
彼らは盗賊だ。
その盗賊の宝物庫――であれば、それは盗んだ品に他ならないだろう。
しかし、先日怪物に襲われて荷物の方もすっからかんである五人にとって、使えるものは何でも使いたい。
四の五のいってられないのだ。
「ここね」
アメリオが発見したのは、地下へと続く隠し扉だった。
ただの石の板が目印であるそれは、仕切りで囲まれて薄暗い遺跡の中では、他の石レンガに紛れており、たいそう発見し辛い物でだった。
太い木の枝をてこのように扱い、蓋を持ち上げる。
すると、閉じ込められていたホコリが舞い上がり、二人の目鼻に飛び込んだ。
「けほっ、けほっ……開いたわね! 行きましょ!」
二人の少女は目をこすりくしゃみをしながら地下へと潜った。
カンテラが橙色の光で照らす足元の階段は一定ではなく歩きづらい。
カビ臭さと湿気が立ち込める空間を、歪んだ階段に足を取られないよう、慎重に進む。
「……ここもあの人たちが作った場所なのでしょうか?」
「多分違うわ。このレンガ、かなり風化してるのよ。それに、この階段も侵食してきた木の根によるものよ。多分、昔ここに住んでた人のものだわ!」
「わ、アメリオさん鑑識みたい」
アメリオの声がどこか上ずっていた。
いつものことではあったが。
「ほら、この壁からも木の根が這い出してるわ。外のあの木がここまで育つ前に建てられたのよ……すごいわ!」
「直球ですけど……歴史、好きなんですか?」
「わからないわ! お父様は歴史を教えたがらなかったわ」
「そうなんですか」
ヨルカにも教養はあった。
本を開き調べるくらいは造作も無く、現に彼女はここに来るために下調べをしていた。
しかし、どの書物にもここ――ベルガーデンの事は書いてなかった。
地図を見れば、未開拓と赤い印が書かれているのみであった。
蓋を開けれ見れば、どうだろう。
これだけの歴史がありながら、あの世界的に見ても巨大な国家「アタラシア」が、この大陸のことを知る機会がなかっただろうか。
隠蔽。
そんな言葉が頭をよぎる。
「でも、今は知らなくて良かったって思ってるわ」
「え?」
アメリオが、埃を煙たそうにしながらも、楽しげに鼻歌を歌ってそんなことを口にした。
「飲み慣れた銘柄の紅茶を淹れても、つまらないでしょ?」
それは人によるのではないかと、そんな言葉を胸の中に仕舞うヨルカだった。
「わたしはジャムを入れるのが好きよ!」
それはある。
ヨルカは黙ってうなずいた。
かくして二人の貴族は遺跡の最奥にたどり着いた。
そこは倉庫のような場所だった。
いくつも謎の木箱が置かれており、何らかの道具が無造作に散乱している
ヨルカたちの侵入により吹き抜けた風が舞い上げたホコリが教えてくれる、木の根が掻き分けたレンガの隙間から、地下でありながら淡い陽光が差し込んでいた。
「まだ使えそうなのもあれば、もうボロボロな物もありますね」
「あの人達が持ってきたのが新しい方じゃないかしら」
ヨルカは変なものに触れないよう慎重に進み、アメリオは片っ端から引っ張っては捨ててを繰り返している。
――その、散乱した物品の奥。
ホコリの付いていない布を被せられ、何かが陳列していた。
「これが一番、新しそうですけど……」
そう言って、ヨルカはゆっくりとその布を取り払った。
それは、瓶詰めだった。
なにやら緑色に輝く液体が満たされている。
「ジャム……ですか?」
拾い上げ、丹念に観察する。
正直あまり美味しそうではない。紅茶にはまず合わないだろう。
「ねえ、そういえば、あの一味の内の一人って、その、魔道具? を持ってたのよね」
アメリオが箱の中身を漁りながら、そんなことを口にした。
「はい。もう壊れてしまいましたけど……」
「もしかしたら、まだ他にもあるんじゃないかしら。食べ物を勝手に作ってくれる鍋とか!」
「それは……助かりますね。そしたら、それ以外に食べる必要は無くなりますし」
「なんで? 食べられる物は食べるべきよ!」
どうやら、この少女はまた変なものを口に入れたがっているらしい。
「……でも、それはもっともですね」
「でしょう!?」
食事の話ではない。
もしかしたら、魔道具がまだこのガラクタの山の中に眠っているかもしれない。
もう少し頑張って探して見る必要がありそうだ。
しかし、実際のところ彼は重体だった。
体の節々は擦り切れた紐のようにボロボロで、目もどこを見ているのかわからず、何を問いかけても返事がない。
弱く、とてもか細い意識が、どうにか彼を繋ぎ止めているに過ぎなかった。
限界を超えた戦い。
脳からの分泌物により突き動かされていただけで、青い剣の反動が抜けきったわけではなかった。
本来なら、もう横になってゆっくり休んでほしいところであった。少なくとも、ヨルカはそう思った。
しかし。
彼は、未だに片膝を立てていた。
何かに備えるように。
「ナトさん、もう、ゆっくり休んで……」
ヨルカがそう言っても、聞こえていないのか、震える体を同じように震える足で支え、どこかを虚ろに睨んでいる。
その脇では、アメリオとオーハンスが男の死体の側でしゃがみ込んでいた。
「とんでもないわね……ねぇ、どうするの、これ」
「どうするって言ったってな、俺達じゃどうしようもないだろ」
死体の処理について話し合う二人。
オーハンスは怪我をした足をかばうように、マイクに寄り添いながら話していた。
グリーゼについては、既に三人の中で結論が出ていた。
というのも、
「ぁ……が……」
失った顔から上――そこが、再生を始めていた。
初めて見た時は、三人共言葉を失った。
首を失っても再生するその力。
特にアメリオとオーハンスは、彼女の人を超えた部分をはっきりと目にしたことが無かったため、目に見えて動揺していた。
本当に息を吹き返すかもわからないが、もしも再生が終えれば、その時に話を聞こう。
というより、直視するのも気が引ける光景だった。
今はそっとしておこう。三人はそう結論づけた。
実際は議題を先延ばししただけに過ぎないのだが。
「とりあえず、ナトとグリーゼを安全な場所まで運びましょ。それから考えればいいわ」
「そう、ですね……ナトさん、掴まってください」
ナトの腕を方に回し、ヨルカ立ち上がろうとした。
しかし、ナトはそれを拒否するかのように、動かない。
「ナトさん?」
彼は、やはり黙ってただ一点のみを見つめていた。
しかし、よく見ると口がモソモソと動き、何かを伝えようとしている。
ヨルカは耳を傾け、その言葉を聞き取ろうとした。
「に、げ……なんです?」
その時だった。
何か、異音が聞こえた。
倒れた木の方からだ。
倒れた大木が動いていた。
その下から現れたのは、下半身を潰された大男だった。
「そんなっ!!」
「っ!」
悲鳴をあげるヨルカと右手を構えるアメリオ。
彼女たち二人にオーハンスは制止をかけた。
「待て、あいつはもう動けない筈だ」
「で、でも……」
「それも、そうね」
「アメリオさんっ!」
オーハンスの言葉を聞いて、腕を下ろすアメリオ。
心配そうに上目遣いで二人を見るヨルカを置いて、オーハンスは男に近づいた。
「聞きたいことがある」
「なん、だい……」
地面を這う生気の無い顔が、オーハンスの方をゆっくりと向いた。
「お前、何をしてそんな体になったんだ。まさか、前からってことはないだろう」
「……とう、めいな……石」
「透明な、石?」
「馬車の……操者が、食べたのを、見て……」
なんだか要領を得ない回答だった。
「だ、けど……あれは、だめだ……君たちは、食べたら……」
「なんだ、お前、俺達のこと心配してるのか? 散々痛めつけたくせに」
「……少し……頼みが、あるん、だ……」
男の死んだ魚のような目がオーハンスを見つめ続ける。
「僕、たちを……火を点けて、燃やしてくれない、か……」
「は?」
「だい、じょうぶ……酒の貯まったこの腹なら……すぐ、燃える……」
あれだけ自分たちを殺そうとした男が、逆に殺してくれ?
どういう風の吹き回しか。
オーハンスは逡巡した。しかし答えは出ない。
「普通、助けてくれ、とかじゃないのか」
「ああ……そうだ、助けて……くれ……」
「ほら見たことか」
しかし、男は続ける。
「この世界から、開放、してくれ……」
そこまで言葉が続いて、オーハンスは余計に怪訝げに眉を潜めた。
「もう……たくさん、だ。仲間が、死ぬのも……死の恐怖に、怯えるのも……」
「じゃあ、なんで、俺たちを殺そうと……」
「なんでも、良かった。抗って、それで、死ねるなら……なんでも。だから……期待していたんだ、君たち、には……。
ただ、死にたかったんだ」
男は、もうまともに呼吸もできなくなった胸を懸命に上下させ、そして最後に一言付け足した。
「ねぇ、同志……そう、だろう?」
――そう言って、男はナトの方を見た。
「
拘束した隻眼の男の、そんな絶叫が聞こえてくる中、ヨルカとアメリオはいない。
彼女たち二人は、盗賊たちが住んでいた遺跡の探索をしていた。
オーハンスは一人、グリーゼと火を点けた時点で気を失っていたナトの看病、そして燃える盗賊たちを任されていた。
流石に女子にこれを見せるわけにはいかないという、彼なりの配慮がそこにあった。
「うげえええっ」
もっとも、男である彼でも耐えられたものではなかったが。
それもそうだ。健全な少年なら、大人四人に火をつけて殺すなんて、トラウマ体験も甚だしい。
それでも、死ぬ間際の最後の希望を叶え――そして看取るまでが、命の取り合い、そして弔いになるのだろうというオーハンスなりの思いがあった。
さて、なぜ二人が遺跡の中へと踏み入ったかというと、それは男が残した言葉によるものだった。
『遺跡の中には……宝物庫が、ある。それを……君たちに、譲るよ……』
彼らは盗賊だ。
その盗賊の宝物庫――であれば、それは盗んだ品に他ならないだろう。
しかし、先日怪物に襲われて荷物の方もすっからかんである五人にとって、使えるものは何でも使いたい。
四の五のいってられないのだ。
「ここね」
アメリオが発見したのは、地下へと続く隠し扉だった。
ただの石の板が目印であるそれは、仕切りで囲まれて薄暗い遺跡の中では、他の石レンガに紛れており、たいそう発見し辛い物でだった。
太い木の枝をてこのように扱い、蓋を持ち上げる。
すると、閉じ込められていたホコリが舞い上がり、二人の目鼻に飛び込んだ。
「けほっ、けほっ……開いたわね! 行きましょ!」
二人の少女は目をこすりくしゃみをしながら地下へと潜った。
カンテラが橙色の光で照らす足元の階段は一定ではなく歩きづらい。
カビ臭さと湿気が立ち込める空間を、歪んだ階段に足を取られないよう、慎重に進む。
「……ここもあの人たちが作った場所なのでしょうか?」
「多分違うわ。このレンガ、かなり風化してるのよ。それに、この階段も侵食してきた木の根によるものよ。多分、昔ここに住んでた人のものだわ!」
「わ、アメリオさん鑑識みたい」
アメリオの声がどこか上ずっていた。
いつものことではあったが。
「ほら、この壁からも木の根が這い出してるわ。外のあの木がここまで育つ前に建てられたのよ……すごいわ!」
「直球ですけど……歴史、好きなんですか?」
「わからないわ! お父様は歴史を教えたがらなかったわ」
「そうなんですか」
ヨルカにも教養はあった。
本を開き調べるくらいは造作も無く、現に彼女はここに来るために下調べをしていた。
しかし、どの書物にもここ――ベルガーデンの事は書いてなかった。
地図を見れば、未開拓と赤い印が書かれているのみであった。
蓋を開けれ見れば、どうだろう。
これだけの歴史がありながら、あの世界的に見ても巨大な国家「アタラシア」が、この大陸のことを知る機会がなかっただろうか。
隠蔽。
そんな言葉が頭をよぎる。
「でも、今は知らなくて良かったって思ってるわ」
「え?」
アメリオが、埃を煙たそうにしながらも、楽しげに鼻歌を歌ってそんなことを口にした。
「飲み慣れた銘柄の紅茶を淹れても、つまらないでしょ?」
それは人によるのではないかと、そんな言葉を胸の中に仕舞うヨルカだった。
「わたしはジャムを入れるのが好きよ!」
それはある。
ヨルカは黙ってうなずいた。
かくして二人の貴族は遺跡の最奥にたどり着いた。
そこは倉庫のような場所だった。
いくつも謎の木箱が置かれており、何らかの道具が無造作に散乱している
ヨルカたちの侵入により吹き抜けた風が舞い上げたホコリが教えてくれる、木の根が掻き分けたレンガの隙間から、地下でありながら淡い陽光が差し込んでいた。
「まだ使えそうなのもあれば、もうボロボロな物もありますね」
「あの人達が持ってきたのが新しい方じゃないかしら」
ヨルカは変なものに触れないよう慎重に進み、アメリオは片っ端から引っ張っては捨ててを繰り返している。
――その、散乱した物品の奥。
ホコリの付いていない布を被せられ、何かが陳列していた。
「これが一番、新しそうですけど……」
そう言って、ヨルカはゆっくりとその布を取り払った。
それは、瓶詰めだった。
なにやら緑色に輝く液体が満たされている。
「ジャム……ですか?」
拾い上げ、丹念に観察する。
正直あまり美味しそうではない。紅茶にはまず合わないだろう。
「ねえ、そういえば、あの一味の内の一人って、その、魔道具? を持ってたのよね」
アメリオが箱の中身を漁りながら、そんなことを口にした。
「はい。もう壊れてしまいましたけど……」
「もしかしたら、まだ他にもあるんじゃないかしら。食べ物を勝手に作ってくれる鍋とか!」
「それは……助かりますね。そしたら、それ以外に食べる必要は無くなりますし」
「なんで? 食べられる物は食べるべきよ!」
どうやら、この少女はまた変なものを口に入れたがっているらしい。
「……でも、それはもっともですね」
「でしょう!?」
食事の話ではない。
もしかしたら、魔道具がまだこのガラクタの山の中に眠っているかもしれない。
もう少し頑張って探して見る必要がありそうだ。