第14話 「空隠しの森」

文字数 7,964文字

「はぁ……はぁ……」

 少女の息苦しそうな声と、いくつかの足音。
 各々が緊張した面持ちで、歩みを進める。

 暗がりの森の中に、無数の光が揺蕩っていた。
 それらは全て塵のように小さいが、その淡い光は辺りを明るく染める。
 今も、彼らが歩く夜の深い森は、まるで昼間のよう……とはいかないものの、移動に支障をきたす事がない程度に明るかった。

 辺りに生える木々は幹がとても太く、間隔がそれなりに空いているため開放感がある。
 しかし上を見上げれば、暗い色の葉が空を覆い尽くしており、星の瞬きはおろか、月光すら届かない。
 地面は石畳の舗装がなされており、灰色に塗りつぶされたあの墓場とは異なり、きちんと整備がされている。
 はっきりと感じる生活の気配に、鎧の後に続く三人は安堵した。

「『空隠しの森』か」

 ちらりと、馬のような生物の上でグッタリとしているヨルカを見やる。
 早く何とかしてあげたいが、――もしこれが罠だったら、その時は。
 ナトの脳裏を何かが掠める。笑う豚男と、泣き叫ぶ少女の記憶。
 腰の剣を確かめるように、指先で少しだけ撫でる。

「そういえば、なぜあなたはあの場所に?」

 懐疑の目を向けるナト。

「警備のために巡回しているのです。あなた方の様な来訪者も、貿易関係以外では珍しいとはいえ、稀に立ち寄られる事もあるので……ああ」

 一泊の間が空き、その兜が振り向いた。

「……心配しなくても大丈夫です。取って食べようなんて思っていないですから」

 鎧が何かを感じ取ったのか、ナトたちに向けてそう話した。

「そうですか」

 警戒した表情を解かずに、ナトはそう応える。
 それに対して鎧は、何も言わずに前へと向き直した。

「な、ナト……さん」
「……ヨルカ」

 ナトはオーハンスが引く生物の側に近寄り、ヨルカの具合を観察する。
 あの怪物の攻撃を受けた右肩の傷は、布を巻いて応急手当をしてある。
 他に目立った外傷はない。

 『呪い』。
 眼の前を歩く鎧――グリーゼの言葉。
 ここに来る前は、おとぎ話の中でしか聞いたことのない言葉だった。

 ヨルカは、何かに気がついたように服の中を(まさぐ)り、そして目を見開いた。

「無い……」
「何が?」
「……ナトさんから頂いたブローチが、無いんです」

 苦しそうにしながら、訴える様に声を出すヨルカ。

「今はいいよ、もっと大事なものがあるでしょ」
「で、でもっ……!」
「ヨルカ、症状の方はどう?」

 それでも、どこか救いを求める様に横たわりながら視線を向けるヨルカだったが、震える瞳をナトから外して、口を開いた。

「苦しい、です。喉が絞まったみたいで、頭も痛くて、風の日の水面(みなも)みたいに……景色が、揺れてます……」

 焦点の定まらない瞳に涙を浮かべ、そう訴えるヨルカ。
 手を伸ばし、その柔らかい金髪を撫でる。
 汗ばんだ頭皮からは、ひどく高い熱が感じられた。

 そうだ、もともと彼女は箱の中の娘だったのだ。
 ピクニックすらしたことがないような子に、いつ死ぬかもわからないような旅をさせて。
 こんな事になって、辛くないわけがない。
 ナトは目を伏せて唇を噛んだ。

 少女のピンク色の唇が震え、湿った吐息と共に、葉の擦れたような声が漏れる。

「でも」
「ヨルカ、あとは安静に……」
「一番辛いのは、いつも、お役に立てないことです……」

 そう言って、ヨルカは瞼を落とした。
 しばらくナトは足を止めたが、前を歩く彼らと距離が離れる前に追いかけた。

「……グリーゼさん、村に行けば、何とかなるんですか?」
「ええ。恐らくは。そういう場所ですから」

 グリーゼはそう言うと、「もうすぐですよ」と、落ち着けるようにそう言った。






「アソヴァ、ラナルディ」
「オグソーバ…………あなた達の事は話しました。通してくれるそうです」

 ナト達にはわからない言語で村人と何かを会話して居たグリーゼは、
 村人と頷き合うと、改めてナト達に村の中へ入るよう促した。

 高い木々の幹に寄り添うように建てられた木の支え。
 それがいくつも群れをなし、それぞれが木製の吊り橋でつながっていて、
 支えの上には民家などの建物が幹から突き出るように建てられている。

 地面は殆どは畑として使われていて、それ以外は大きな池や簡素な通り道となっている。
 森を一つの集落として、ナトたちの国にはない技術で利用したその村は、まるで一つの壮大な芸術作品のようであるが、
 木々間の吊り橋や建てつけられた足場、木々を掘り抜かれた階段などを利用している村人たちは紛れもなくナトたちと同じ人間であり、
 彼らが平然とそれを利用している風景が、油とミルクを混ぜたような、妙な気分を湧き立たせる。

 揺蕩う光の中、吊り橋の村を進むナトたちは、グリーゼにとある一軒家に案内された。
 巨木の枝分かれの上に建てられた、木造りの家だ。
 木肌に切り立つ手すりの無い通路で、村人たちとのすれ違い側(ぎわ)に落とされないよう慎重になりながら、辿り着いたその場所でグリーゼが言った。

「私の借りている家です。どうぞ、ここで休んで行ってください」

 そう言うと、グリーゼは組み枝で出来た取っ手を引いて、家の扉を開けた。
 殆ど物のない質素な家だった。
 オーハンスは外で馬のような生物を、手綱を足場の柵に留まらせ、アメリオは率先して中へと入っていった。
 ナトは、留められた生物の広い背中からヨルカを抱き上げて家の中に入ると、一つのベッドにゆっくりと横たわらせた。

「借りているのか?」

 オーハンスが見守る黒鎧に問う。

「ええ。この村の正式な住人ではないですから」

 その時、同じタイミングで家の外に一人の男が到着した。
 灰色のローブを羽織り、手にはカバンを持っている。

「エル・オルエ」
「クレバサ、ユルリィス」

 グリーゼに何事かを話すと、家の中へと入って来てナトたちに軽く会釈をする。

「彼はこの村の薬師です。私が先ほどの肩を通して、緊急で呼びました。念の為、診てもらいましょう」

 彼はヨルカの元に寄ると、その上体を起こした。
 そして、カバンから取り出したランプでヨルカの瞳に光を当てて観察し、今度は何かを染み込ませた布でヨルカの首元の汗を拭った。
 そして、その布が青く染まったのを見て、男はグリーゼに何かを話す。

「……やはり、呪いのようです」

 その言葉に、ナトは体を少し震わせた。
 奥歯を強く噛んで、拳を握り込み俯く。

「あの怪物は、あの場所でよく現れるんです。運が悪いときには、何体も。
 そして、迷い込んだこの村の人間を襲い、彼女と同じ被害を出すか、もしくは……」

 そう言って、グリーゼは下を向いた。
 それから、少しの間沈黙が流れる。

「……あの、なんとかできませんか」

 そんな中、ナトは、声を震わせてグリーゼに問いかけた。

「問題ありません。必要な物はこの村に揃っています。
 私たちがなんとかしますから……旅の疲れもあるでしょう、あなた達は休んでいて下さい」

 そう言うと、グリーゼは男に頷きかけ、
 その後、男は再び会釈をして家から出ていった。

 グリーゼは家にあるテーブルに着くように促した。
 アメリオとオーハンスは黙って席に着いたが、ナトはヨルカの側に椅子を寄らせて、そこに座った。

「これを」

 グリーゼが、ナトに細長い布を差し出した。止血用のものだ。
 渡されて、気づく。
 怪物と戦った時に削れた、左手の掌に。

 しかし、それでも痛み出すことはなかった。
 何も言わずに、ナトはその手に包帯を巻きつける。
 乾きかけていた血が、当てられた布に僅かに染みを作った。

 そういえば。
 なぜ、攻撃を受けて怪我をしたのに、呪いかかってないんだろう。
 暫く考え――きっと、考えた所で答えがでるわけでもないだろうと、思考を中断した。

 (しばら)くして、グリーゼが五つの木製のコップを盆に乗せて運んで来た。
 三つはオーハンスとアメリオの着いているテーブルに、もう二つはヨルカが横たわるベッドの脇の小さなテーブルに置いた。

「貴方は、飲めるようなら飲みなさい」

 ヨルカにそう話すと、少女はコクリと小さく頷いた。
 グリーゼはオーハンスとアメリオのいる机に鎧のまま着いた。

「グリーゼさん、どうしてここまでして下さるんですか? とても、有難いんですけど……」

 警戒心を伺わせる表情で、ナトはグリーゼに疑惑の目を向ける。

「子供が困っているのに、大人が助けない訳がないでしょう。……それに、あなた方も外から来たのでしょう?」
「『も』って、事は……貴方も、外から?」
「ええ、だいぶ昔の話ですが」

 どうりで、と、ナトは納得するように頷いた。
 出会った時からこちらに合わせた言葉を選んでくれていたのは、そういうことだったのか。

「……それにしても、子供だけでよく来れたものです。私の時は大人数で行列を作って、それでも私は以外は全員命を落としました」
「運が良かったんです。何度も死にかけましたから。そして……今も」

 チラリと、ヨルカを見やりながら悔しそうに唇を噛む。

「それにしても、『呪い』だなんてよくわかったわね」

 アメリオが口を開いた。

「ええ。私たちはそういうのに慣れていますから」

 首を傾げるアメリオとオーハンスに、グリーゼは続ける。

「この村は他の村との交流があります。しかし、村の外は危険が付きまとう。そういう訳で、交易の際にはよく護衛の者を雇うのですが、それでも傷ついてしまう事は多かったのです。
 そこで、私たちは交易品に森の中の素材を使った薬品を加えたり、怪我の手当てをするようになり、そういった方向に発展していきました」
「……じゃあ、『呪い』っていうのは?」

 グリーゼがそう語り終えると、次はオーハンスが口を開いた。

「実は、詳しい事はわかっていません。病魔とは異なる性質の体調不良としか……。
 ですが、それを癒やす方法は、既に心得ています。……今までも、多くの者が苦しんで来ましたから」

 仮面に包まれた表情は伺いしれないが、

「この世界が、畑の脇に墓が立つようなあの場所よりも残酷な事は、既にあなた方もご存知でしょう」

 それは、本国との比較をしているのだろうか。
 言葉尻には無念のようなものが込められているように思えた。

 村に住んでいたって、安全だとは限らない。
 それでも、彼らはそんな中で生きなければならない。
 逃げられないのだ、自分の世界からは。
 ――そして、この世界に足を踏み入れてしまった、自分たちも。

 漆黒の仮面がナトを向く。
 それに気が付いて、ナトが俯いていた顔を上げた。

「そういえば、あなた方のお名前を聞いていませんでしたね。
 なんとお呼びすればよいのでしょう」







「それにしても、凄い村ね」
「ああ。ゴミや死体が山積みになってた俺達の故郷とは、まさに雲泥の差だな」
「あら、そうなの?」
「……お前も貴族か」

 オーハンスとアメリオは村の中を散策していた。
 巨大な木々の幹に立てつけられた木製の足場を慎重に渡る。
 オーハンスの手の中には、いくらかの硬貨が握られていた。
 この辺りの通貨で、使い道もないので使ってくれと、グリーゼに無理やり握らされたものだった。

 この外出に関して、はじめはアメリオが言い出したものだが、グリーゼがそれに賛同し、
 ヨルカの面倒は自分が見るから行ってきなさいと、送り出したのだ。
 二人の隣に、ナトは居ない。
 もちろん誘った。むしろ、自責の念に駆られるナトを気遣ってのものだった。
 しかし、「行ってきなよ」と言って、ヨルカの側から離れようとしなかったのだ。

 それを見てオーハンスは外に出ることを渋ったが、アメリオはそれでも無理やり外へと連れ出したのだった。

「……なんで、出てきたんだ」

 オーハンスは、浮足立たせながら辺りを観光するアメリオに、真意を探るような視線を向ける。
 すると、アメリオは軽く胃の辺りを押さえる。

「お腹が空いたのよ。とんでもなく」
「喧嘩売ってんのか」

 その時、閉鎖された森に鐘の音が響く。
 本日三度目、夕暮れ時の鐘だった。

「……いや、確かに腹が減ったかもしれないな」
「でしょ?」

 あたりを見回す。
 すると、人が大勢集まっている、何なら賑やかな建物を見つけた。
 目を輝かせるアメリオ。それを見て、オーハンスは何かに気が付いたように、心配そうにソワソワする。

「そういや、言葉通じないけど大丈夫なのか?」
「気持ちがあれば伝わるわよ」

 そういって、アメリオはそちらへ向けてどんどん進んでいってしまう。
 一抹の不安を覚えながら、オーハンスはそれに続いた。

 結果から言えば、何の問題もなかった。
 店へと入ったアメリオは、その場のノリと意思疎通能力であっという間に打ち解けてしまい、
 オーハンスが気が付いた時には、既に机に着いていた。

「まじかよ」
「注文は適当にしておいたわ!」
「……まじかよ」

 目の前には、大きな木製のコップが一つ置かれている。
 席に着いてからすぐに、店員が運んできたものだった。
 準備の早さから、もしかしたらここでは一般的な物なのかもしれないと、オーハンスは推測した。

 その中には、底に薬草のようなものを沈ませた金色の飲水が、反射した光を揺らしていた。
 渋めの刺激臭がオーハンスの鼻孔をついてくる。

 見回してみると、店の様相は開放的なもので、
 大木の枝の又の間に敷かれた床板の上に、ただ屋根を乗せたような物だった。

 晒された店内は、仕事終わりの村人たちで賑わっている。
 その様子は、オーハンスが此処に来る以前、ナトと立ち寄っていた酒場によく似ていた。

「そういえば、オルフが牧場から貰ってきたアレ、結局どうするの?」
「ん? ……ああ、『マイク』のことか。連れて行くしかないだろ。牧場主の人が快く譲ってくれたんだ、大事にするさ」

 グリーゼの家の前で繋げている、馬のような生物を思い出してオーハンスはそう言った。
 へぇ、と、相づちを打ってアメリオはコップの中身を喉に流した。

「……ねぇ、ナトの事だけど」

 少しだけ空いた間の後に、少しだけトーンを落として、ポツリとアメリオがそう言った。

「ああ。……引きずってるよな。あの時のこと」

 そう言って思い出されるのは、屋根の高い城のような建物に、三人がナトを助ける為に突撃した、あの日。
 ドアを開け放ち、異臭と共に飛び込んできた、悲惨な光景。
 そして、今までに見たことのない、親友の激情を孕んだ獣のような顔。

「いや……多分、それだけじゃない」
「どういうこと?」
「憶測でしか無い。でも、もしかしたらあいつはあの時、妹のことを……いや、何でもない」

 目を伏せてオーハンスは押し黙った
 アメリオは、以前ナトに言われたことを思い出していた。
 『俺は、魔王を倒す。妹の、仇を取る。そのために、「ベルガーデン」に来た』
 そして、その時の彼の、深い闇を(たた)えた瞳を。

「あの時、同じ目をしてたわ」
「……ああ」

 ヨルカが倒れた、その時。
 混乱の中に見せた、黒い炎の渦が蝕んだ、彼の表情。

「いつか、絶対に、取り返しがつかないことになる。
 あいつは、どこまでも一人で行こうとしてる。
 ……血に塗れて、どこまでも」

 オーハンスがそう言うと、一拍置いて、アメリオが突然コップを手にとった。
 そして、中身をグイッと喉に通した。

「っぷはぁ。……大丈夫よ! 絶対に、大丈夫!」
「……お前、いつも根拠が無いこと言うよな」

 そう言うと、アメリオはコップを置いて、
 その紅く輝く瞳でオーハンスを見た。

「根拠ならあるわ。私たちが見てるじゃない。
 私たちが、ナトを止めるのよ」

 オーハンスは目を少しだけ見開いた。
 数秒の間が空き、鼻から息を吐き出すと、
 オーハンスはコップを手にとって中身を仰いだ。

「っぷ!?」

 慌ててコップを机に置き、口を手で押さえて青い顔をする。
 何度も咳き込みながら、どうにか口の中のそれを飲み込んだ。
 そして、ちらりとヨルカの方を見た。

「……どうしたの?」
「げほっ……お前とナトが悪食お化けだってことを忘れてたよ」

 口元を拭いながら、オーハンスは黙ってコップを机の端に寄せた。
 口の中は未だに謎の渋みに侵されていた。

 そうしたやり取りの中、店員が運んできた料理が机の上に置かれる。
 オーハンスはちらりとそちらへ目を向け――そして、もう一度目を向けた。

「おい、なんだこれ」

 黒い塊のようなものだった。
 ブロック状に皿の上に鎮座しているそれは、石ころと呼んでも差し支えの無いような見た目をしていた。

「……石炭か?」
「とんでもなく美味しそうね!」
「お前は世界中の物をどう見てるんだよ」

 アメリオは、付属してきた三又の道具で、それを器用に口の中へ運んだ。
 そして、とても幸せそうに目を細めた。
 それを見て、オーハンスも同じようにそれを含む。

 この時、アメリオはオーハンスからの信用を一切失うことになった。






「大分お腹も膨れたわね」
「俺はそうでもない」

 帰路に着いたアメリオとオーハンス。
 満足そうなアメリオの顔を見て、オーハンスはため息をついた。

「戻ったわ」

 そう言って、グリーゼの家のドアを開ける。
 ……しかし、返事はなく、

「うっ……おえぇぇぇっ」

 先程の薬師と、看護婦と(おぼ)しき女性に囲まれたヨルカが、用意された革袋の中に吐瀉(としゃ)していた。

「っ!? おい、ヨルカ!!」

 オーハンスとアメリオが駆け寄る。
 手厚い介護を受けて尚、苦しそうなヨルカの顔は今までより青く、艶のあった唇も気色が悪い。
 大きな隈ができている虚ろな目が、二人を捉える。

 震える指先で、机の上を指差すヨルカ。
 その直後、力が入らなくなったように倒れた彼女を、看護婦たちが抱きとめて、ベッドの上に姿勢を戻した。

「机?」

 アメリオが振り返り、机の上に何か置き手紙のようなものが置いてある事に気がついた。
 拾い上げ、そこに書かれた文字に目を通す。

「『ヨルカの体調が悪化の一途を辿る一方で、解呪薬の在庫が切れているとの報が入った。これから、グリーゼさんと取りに近くの遺跡に行ってくる。ヨルカをよろしく』。
 ……これ、ナトからよ」

 アメリオが緊張した面持ちでそう言った。
 それを聞いたオーハンスは、背中が寒くなるのを感じた。






「……行きますか?」
「はい。グリーゼさん、ご迷惑をおかけします」

 森に囲まれたその場所に、光る灰は降っていない。
 二人が佇むその正面には、大きく口を開いた崩れかけた巨大遺跡があった。

「いえいえ、子供を守るのは大人の役目、もっと頼って良いんですよ」
「……では、お言葉に甘えて」

 ナトは、その一歩を踏み出した。
 風が吹く。
 それは、亡者の宴に歓迎されているかのようだった。
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