第2話

文字数 1,404文字

川沿いの道を歩いて行った。
お昼はいつもの喫茶店でミックスサンドイッチを食べてマスターの口うるさい説教を右から左に受け流しながら珈琲を飲んだ後外に出た。
この辺は画廊や絵画に使う材料、額縁等々美術品を取り扱う店が連なっている。
探偵は一軒の画廊の前で止まった。
プレートには『サイルイウ』と刻まれている。
大きな窓ガラスが画廊の様子を覗ける。

「お買い上げありがとうございます」
女性はお辞儀した。
「いい買い物ができたよ、レイニーさんまた来るよ」
老人が紙で包んだ絵画を脇に抱えて店を出た。
レイニーは店の隅に置かれたノートに売上を記載した。
(今日はこれで店じまいにしよう)
扉に付いているベルの音が聞こえた。
「すみません、今日はもう…」
男が入って来た。見覚えがある
(何故こいつが!)
あの時、屋上で肉を焼いていた男が画廊の中にずかずかと入って来た。
(駄目だ動揺するな、相手は気付いてないはずだ)
「いらっしゃいませ、こちらの画廊は初めてでございますね。」
(関わると面倒だ、さっさと追い出そう)
「申し訳ございませんが今日はもう店をしめ…」
「すまない絵を探しているんだ、事務所に飾る用の。大きさはそうだな…あれぐらいがいい」
こっちの話を聞いてない、かなり面倒だがここで揉めたら更に厄介だ。
「こちらの絵は東西戦争時に書かれた…」
「あーそう言うのいいから、もっとそう…
あれだよ」
(分かるか!)
「あれだ、あそこに飾ってある物がいい」
奥に飾ってある絵を指差した
「そうですが、近くで見てみましょうか」
別の絵の前まで誘導した。
(さっさと適当にあしらって帰させよう)
「こちらは最近話題の新人画家が書き上げた…」
「やっぱり違う、俺が探しているのはもっと…もっと…」
(もっと何!)
「そうだあれだ『戦場の喜び』」
レイニーは内心動揺した。
「…みたいな奴が欲しい」
「あ…な、なるほど」
(ばれて…ないのか?)
「そうですね、ああいった絵は私の様な小さい店には置いてない物で」
「そうなのかーマジかー」
男は頭を掻きながら言った。
(馬鹿でよかった)
そっと胸を撫で下ろした。
「でもあるんだろ、店の地下室の金庫に」
男が鋭く聞いた。
「本棚の裏にある階段を降りた部屋の左の壁の手前から三番目の絵画の裏にある金庫だ、番号は84、12、46、23…」
(何故場所と番号が分かるの!)
殺るか、いや逃げよう。
レイニーは左手に魔石をはめ込んだ指輪を男に指差した。
(なっ、なんで!)
閃光で目眩(めくら)ましする魔術が発動しない、魔石が劣化していたのか、いやそんなはずは…なら違う手だ。
ヒールの底に刻印した魔方陣を発動させる、魔力を送り踏み込めば黒煙が発生する。
レイニーは素早く足を上げて踏み込んだ、発動しない。
(どうして!)
「どうかしたんかい?」
男が近づいて来た。
(血を流したくなかったが…)
自分の髪留めを引き抜き男の喉元を狙ったが、一瞬で手首を捕まれひねりあげられ引き寄せられた。
レイニーは諦めずヒールで男の足を踏みつけようと足を上げた途端に足払いを食らった。
「あっ」
床に倒れると思った瞬間、男が体を支えた。
「変わった接客だな」
男は体をゆっくりと起こしたが手を放さない。
「放せ!」レイニーは上手くいかない自分にイラつきながら抵抗した。
「昔のよしみじゃないか、一旦落ち着こうぜ」
何を言っているんだ?
「誰があんたなんか」
「あんたの親父さんクライフ・フリーフォードの知り合いだ」
その言葉を聞いて動揺した。







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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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