第3話

文字数 936文字

「どうだ?やってくれたか?」
マスターは険しい顔で探偵を睨んだ。

「はぁ…とりあえずやったが…」
探偵は面倒そうに答えた。

「とりあえずじゃ困るんだよ、俺にとっちゃ大事な事なんだよ」
マスターは怒鳴りつけた。

「はいはい、やりましたやってきましたよ。だけどよ、お前こんな事していいと思っているのか、俺は賛成しかねるね」

「いいから教えろ!」
マスターはテーブルを叩いた。
探偵は少し飛び跳ね、店内を見渡した。
店内には探偵とマスター、店の奥に座ってうつむいた老人がいるだけだった。

「問題ない、あのじいさんは食ったらしばらくは起きない。だから聞かせろ」

「分かった言うよ」
俺には何も関係ない事だし
「単刀直入に言う…



「何も?本当か?」

「ああ、何もなかった」

「おい、適当な事言ってるんじゃないよな?」

「本当だ、何もなかった」

「だけどよ…だけどあいつ…」

「いい加減にしろよ!」
我慢の限界だ、探偵は怒鳴った。
「六日前は何もなかった、駅前のカフェで女友達三人で雑談してただけだ」

「本当か!」
まだ疑っている

「ああ」
探偵は少し落ち着いて冷めきった紅茶を飲んだ。
「五日前は一人で服屋を見ていた、その前は本屋で参考書を買って、その三日前はさっき話した女友達と一緒にちっとも面白くない恋愛映画を観て一昨日は一人で図書館で勉強してたぜ、お前の

はそういうやつだ」

「そ、そうか…本当に何もなかったんだな」
マスター胸をなでおろした。

「なあ、やってる俺が言うのもなんだが止めないか。親として恥ずかしくないのかよ」

「分かってるさ!だけどよ…心配なんさ。うちの大事な一人娘が変な男に捕まったり事件に巻き込まれたりしたら俺…」
マスターは完全に意気消沈していた。
「俺…約束したんだ」弱々しく話し出した。
「あいつの死んだ母親に…何があっても、あいつを幸せにさせるって…絶対に不幸にはさせないって…約束したんだ」
言葉は震え、目から涙がにじみ出ていた。

探偵は食器棚に飾られた額縁に入った写真を見た。
家族写真、男性と女性、女性の腕の中には赤ん坊が抱かれている。


                
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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