第4話

文字数 896文字

結論、釣れた。

浮きの動き、釣竿のしなり具合からして大物で間違えなかった。だが釣れたのが…

「何ですかこれ…」

ブヨブヨとした皮膚、むき出しの牙、頭部から奇妙な触手にぎょろりとした翡翠色の目玉の魚だと思う物体が釣り糸にぶら下がっている。

「これは…」

見たことがない、何とも…答えが出てこない。

「気持ち悪い」

助手がとっさに海に沈めた。

「莫迦よせ!」

助手を静止し何とか陸に上げ、観察を始めた。

陸に上げた時からぴくりとも動かない、死んだのか?
ヒレとエラがある、魚で間違えはない。
大きさは自分の片腕の長さより少し大きい。
表面は粘液の様な物がまとわり付いている、正直触りたくない。

「先生それ海に戻しましょうよ、気持ち悪いですよ」

「何言ってるんだ、お前こういうの好きだろう」

「違いますよ!」

「そうだったか?まあいいや、でもこいつは当たりかもしれないぜ」

この人とうとうイカれたという目で見てくる助手。

「こいつは恐らく深海魚って奴だな」

「シンカイギョ?」

「深い海の底に住んでて、ごく稀に浮上してくる話しだ。俺も見るのは初めてだ」

「食べられるんですか?」

何でもかんでも食べようとする精神には頭が下がるよ。

「さぁな、婆さんに聞けば分かるだろうな」

俺は絶対食べたくない、絶対不味そう。



「旨いなこれ」

助手と二人で食堂の婆さんに今日の獲物を料理してもらった。

淡白で柔らかい、婆さんが珍味と言ってたのも嘘でもない。

「それで先生は何で軍を辞めたのですか?」

「またその話しか」

相変わらず頭に無理やり靄がかかっている。思い出したくない。無かった事にしたい。

、そう思ったからだ」

何も考えなくていい。

「よしてくれ、飯が不味くなる」

(靄が薄れて…)

助手が何か呼んでいる気がする。

『ユベール先輩、何ぼーとしてるんですか』

その姿が彼女と重なった。

「先生、先生」

ふと意識が戻った。あれは…

「先生、どうかしましたか?」

「何でもない。食べよう」

何もなかった。目の前の事を楽しもう。それが正しい判断だと信じて。


                  第14章
               海 浮き 記憶
                     終
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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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