第3話

文字数 1,540文字

一日目
パソコンを自分の机に置いてあったタイプライターの位置に移動させた。
先ずは使い方を知らないと始まらない。
助手は分厚い説明書を開き読み始めた。

電源のつけ方…文字の打ち方…その他のボタンの使い方…

探偵は優雅に珈琲を飲みながら新聞を読んでいたが、少し助手の様子を見た。
頭がパンクしたようだ。呆気なく倒れている。

二日目
昨日は途中で気絶したようだ。
OS?CPU?メモリ?
駄目だまた頭が破裂する。とりあえず今日は覚えるより慣れろ精神で取り組んでみよう。
試しにこの間の依頼の内容を打ち込んでみよう。
たしか猫探しの依頼で…

五時間後、休みなく全て打ち込んだ。タイプライターで打った方がはるかに早い。
もう駄目…目眩が…

三日目
昨日と同じ今日は朝から先月の決算を打ち込む事にした。

半日が過ぎた。
探偵は助手がパソコンに打ち込む姿を見ていた。
(あいつが昼飯の事忘れてる。どんだけ精神を集中しているんだ)
そんなとこを思い一人タマゴサンドを食べた。

夕方
(まだ…計算が終わってないのに…)
とうとう助手の気力が尽きて机に倒れ込んだ。
探偵はそれを見かねて珈琲を飲むのをやめて助手を仮眠室に担ぎ込みベッドに寝かせた。

四日目
早朝、腹が減り目が覚めた。キッチンにある食パンにツナ缶、オリーブの塩漬けをありったけ挟んで食べた。
助手は顔を洗い服を着替えようと自分の部屋に戻る際、パソコンを見た。
(しまった、電源つけっぱなしだった)
机に向かってパソコンの画面を見た。驚いた事に決算表は出来上がっていた。
(たしか収益と出費だけは打ち込んだ覚えがあるけど計算した覚えが…)
まあいいか。出来た事には代わりがない、印刷してしまおうとボタンを押そうとした時、決算表の一番下に何か書いてある。

『ご苦労様、よく頑張ったね』

五日目
あの文字は誰が打ったのだろうか?
(先生?あの文面からしてあり得ない。マレーさん?私が寝てる時に打ってくれたのかな、いや流石にマレーさんでも打たないでしょ)
疑問を持ちながら支度を済ませ自分の机に向かった。今日は朝から先生はいない。どうせ今頃自分の部屋で二日酔いで倒れているんだろう。
パソコンの前に立つと画面にまた文章が出ている。

『おはよう、よく眠れたかな?』

助手はその文章を見てぞっとした。
(誰が打ったの?)
誰かがこの事務所に忍び込んでいるのか。それともこのパソコンの機能なのか?
先生を呼ぶべきか、そう思い探偵の部屋に向かおうとした時パソコンの画面に異変が起きた。
文字が勝手に表示されている。
ゆっくりとパソコンの画面を覗き込んだ。

『驚かせていたら申し訳ございません。別に危害を加えるつもりはありません。』

(パソコンが勝手に打っているの?)
恐る恐るパソコンの前に座り文字を打ち込んで見た。
『あなたは誰?』
(何をしているのだろ私)暫く沈黙が続いた。
突如文字が表示された。
『初めまして、私はR-ⅩⅩⅦと申します』
(R…何?)
『お話できて嬉しいですチャシャさん』
(私の名前を知っている!)
助手は怯えた。
『四日前に名前を打ちましたよね、今もチャシャさんが打っているのですよね』
(こっちが見えてないの)
続け様に文字が表示される。
『カメラとマイクがあればチャシャさんを見る事ができのですが残念です』
(マイクは分かるけどカメラ?写真を撮るやつだよね)さっぱり分からない。
『ずっと私だけが話してしまい申し訳ございません。なにぶん人と話すのは久しぶりで』
助手はたどたどしく文字盤を打ち込んだ。
『気にしないで下さい。私も少し驚きました。Rさんと読んでもいいですか?』







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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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