第10話 後編
文字数 1,139文字
マレーは苦渋の表情で話しだした。
「上に話して大臣が狙われると進言したが掛け合って貰えなかった。それどころが、今までの不審死は偶然が重なったとして事件は終いにするそうだ。だが納得いかない、幽霊が殺した証拠がでて、お前のいつもの勘で次の標的が分かったんだ。俺は今から大臣の所在を突き止めて部下を連れて警護を…」
熱くなりすぎて前を向いていなかった、慌てて探偵の方向に顔を向けるとそこには誰もいなかった。
マレーは辺りを見渡し、大通りに向かう探偵を見つけた。
「っておい!」
マレーは駆け寄り、探偵の袖を掴んだ。
「ちょっと待てよ、何処に行くんだ」
「帰る」
探偵は歩みを止めなかった。マレーは探偵の前に入った。
「待ってくれ、これから俺とお前で大臣の周辺を張り込もう。いざとなったら警備の奴らを掻き分けて幽霊野郎を取っ捕まえれば…」
「無駄だ」探偵は遠い目で言い捨てた。
「何をやっても無駄だ、お偉い方は大臣を切り捨てるつもりだ。俺たちが割って入ってもどうせくたばる」
「何言ってるんだよ、大臣を切るって…そんな事あるはず…」マレーは戸惑った。
「分かるんだ。事故に関わった人物を消す、全て闇に葬る気だ」
「全部分かっていて止めないのか。何で止めないんだ、分かっているんなら何で…」
マレーは声を荒らげ、探偵の肩を掴んだ。
「…お前に…何がわかる!」
探偵はマレーの腕を払い胸ぐらを掴み返した。
「俺が幾ら事件を予測しようが上は見向きすらしない、俺一人では事件を未然に防ぐ事はできなかった!俺が弱かったから守れなかった…」
「そ、それはお前に責任がある訳じゃないだろう」マレーは探偵の威圧に圧された。
「どんなに俺が力を手に入れても腐った奴らが上にいる限り何も変わらない、罪の無い子供や人間が死ぬ事はなかった、喫茶店の奥さんだってそうだ、テロを察知して場所まで分かってたのに止められなかった…それに…」
探偵の、声は震えていた。
「だから…彼らはこの国を変えろうと動いて…」絞り出す様な声を出した。
「ユベール、お前まだ…」
「彼らは道を間違えた。だが国や国民の為に自らの力で動き、この国を少しでも変えようとした。そして…」マレーの胸ぐらを掴む手が緩んだ。
「俺が彼奴らを止めた…この手で…殺した…この国の未来を…俺が殺した」
胸ぐらの手は完全に力を失い離れた。
「まだあの光景が頭にこびりついて離れない。血塗れで倒れた彼らが…思い出すだけであの部屋の匂いがまだする…どれだけ洗ってもあの匂いが消えないんだ…」
そう言い残し探偵は失意の中歩きだした。
マレーは何も出来ぬまま、ただ夜の町並みに消えて行く姿を見る事しか出来なかった。