第4話

文字数 1,652文字

調査報告書

今回の案件はあれで良かったのだろうか
先生はあれでいいと言ったが

依頼金は全財産 私は驚愕した
先生は金にはさほどがめつくないが、そんなこんなを言うとは思わなかったし、青年がそれを承諾したのにも驚いた
あの時、森の前で手渡したのがそうだろう



結果、青年は彼女に会えた
大理石の様な白い肌 セミロングで(つや)のある黒髪 エメラルドグリーンの瞳 桜色をした唇 見事に整った容姿

まるで人形 の様だ



ああそうさ、あれは




青年が愛したのは精巧に作られた人形だったのさ

帰りの駅馬車で饅頭(まんじゅう)を頬張りながら先生は答えた

最初は色々と疑ったが
ストーカーじゃないか
それとも単に嫌われただけじゃないかとか
だがあの手紙を見たときある推測が出てきた

手紙?

一枚だけ奴に届いた手紙さ

宛名は彼女の祖父 昔その名を見たことがあって休み返上で図書館で調べた そして見つけた

彼女の祖父は若かれし頃、それなりに名の知れた魔術師で一人娘を若くして亡くしたとかで随分前に引退したそうだ

魔術師が作った人間は命が宿ると言われるほど天才で今でも愛好家の間では高値で取引されているらしい
あの人形にも命が宿っていたのかもしれない

だったし
助手は首を傾げたが、探偵は話しを続けた

どんな人なのか気になったから会いにいった

行ったのですか!?

二日前にな

てっきり私は競馬に行ったのかと…

でも結局会えなかったが

森の手前で倒れていたそうだ、見つけた時には手遅れだった、郵便配達が手紙を受け取ったのを最後に確認している、青年に手紙を送った後に亡くなったんだろう



バスに揺られながらあと数時間の帰路

先生、質問です
何故先生はあの森を進めたのですか?何故青年は全てを捨ててまで人形に会いたかったのですか?何故先生は…

待て待て、質問が多すぎる、頭が混乱する
えーと、先ずはどうして森を進めたかたかだ、簡単だ、

からだ

探そうとしなかった?

あの森には魔術を使ったんだろう、目的の場所に行かせない幻惑みたいなものだろう、俺は魔術の素養は無いが昔似た事があってな、今回もそうだろうと思って試してみた。対処法は簡単だ、目的を探そうとしないで進む、それが答えだ

ならわざわざ縄で三人とも結ばなくてもよかったのでは?私たちに対処法を説明すれば…

説明するのは簡単だが、人間行動に移すのは難しい、少しでも目的を思い出すだけでもダメだ、だから俺は別の事を考えて進んで目的地に着けた訳だ

因みに何を考えていたのですか?



あ…それで森の手前で…

次の質問だな、何故青年は全てを捨ててあの人形に会いたかったのか

その前に質問です、何故先生は青年に全財産を要求をしたのですか?確かにうちの事務所は経営難ですが

答えは青年が言ってたろう
『愛』だ

愛?それが答えですか?私にはさっぱり…

助手よ、だからお前は半人前なのだ、もっと人を観察して勉強しろ

先生には分かるのですか?

愛にも色々な形ってもいい訳だ、愛は人を盲目にする。
それに本人も幸せそうだったし、亡くなった老人もそれを望んだんじゃないか?

どうしてですか?青年には諦めろと手紙に書かれていたじゃないですか

試したんじゃないか、本当に愛しているのか
大事にしてくれるのか、恋の試練って奴さ、一人娘を差し出す気持ちお前には分からないか

先生には分かるんですか?



あれから青年の姿を見たものはいないらしい、あの森の中で二人で暮らしているのだろうか

愛、私にも分かる時が来るのであろうか



月明かりが窓ガラスを通過して彼女を照らす
冷たく細くか弱い手を取って言った

月が綺麗ですね




                第1章
             恋のからくり
                 終


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登場人物紹介

探偵 ユベール・ロッシュ・Jr.

ろくに仕事もせず酒に博打(主に競馬)、闇市巡りで暇をもて余す元軍人の主人公

普段はダメ人間だが驚異的な推理力と洞察力を持っており、その力は未来予知、千里眼に抜擢する

だが本人は無気力な為、普段は発揮せず、極所的な場面や気まぐれで発動される

よく競馬場で膝を突き崩れ落ちる姿を確認される

助手 チャシャ・ブラウス

探偵事務所で探偵がやらないこと(全部)をこなす健気な少女

孤児院で育ち、都会の生活に憧れて卒業後、就職先が見つからずさ迷っていた所を探偵に拾われ事務所の一部屋に住まわせてもらっている

天性の才能なのか初対面の相手でも友達になることができる

食い意地で腹が減ると人格が変わる

マレー

軍人 探偵とは士官学校からの同期で腐れ縁

太鼓持ちで世渡り上手で事件事故の対処など上官や部下からの評判がよく、順調に昇進している

その実態は探偵に頼み込み事件や事故を解決している

最近の悩みは彼女ができない事

「顔は悪くないと思うんだか、地位も金もそれなりに…」

助手曰く「なんと言うか…残念な雰囲気がするからじゃないですか?」

黒雨(こくう) 怪盗

二十年前に国内を騒がせた怪盗

魔術を駆使してこれまでに盗み取れなかったものはないが、盗まれたものは出所不明の作品ばかりで評論家の間でも謎を呼んでいる。

最近になりまた活動し始めたが当時の黒雨なのか、又は模倣犯なのか軍警察で調査中である

商人 ???

探偵の義理の甥 

常に黒いスーツを着こなし、右手首に手錠で繋がれた金属製の鞄を持っている

ただならぬ威圧感を放し、死線を潜り抜けてきた探偵でさえ油断すれば恐怖に飲み込まれるほど

目的の為ならどんな手段も問わない

国の要注意人物に指定されている

彼の過去については探偵ですら知らない

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